蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~

2021年6月 9日

子どもが次々辞めていくためコーチが病んでしまい困っている問題

入団当初はレベルの高い子がいたのに、3年生で次々移籍していった。そして新学期を迎えた今、チーム崩壊気味。とくに、コーチと10年来の家族ぐるみの付き合いがあった子が移籍したことはコーチにとって大ダメージだったもよう。

ショックで病み気味なのか、大会でも「自分たちで考えろ」のみ。心配からか2日目は別のコーチが来た。

うちの子も、クラスの上手な子が所属している強いチームに行きたがっているけど、移籍するとメンバーがギリギリになるし、これまでよくしてもらったコーチ、チームのことが心配。というご相談をいただきました。みなさんならどうしますか?

今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、移籍を迷うお母さんに3つのアドバイスを送ります。
(文:島沢優子)


(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

 

<<えこひいきするなどコーチに不信感。移籍させたい問題

 

<サッカーママからのご相談>

今年小4の息子は、2年生から隣の小学校の少年団へ入りました。当初は力が入っていた学年だったのか、レベルの高い子がいました。

レギュラーになる為スクールに通ったりして試合では左バックで出るように。以降ずっと左です。ディフェンスばっかでり攻めにいかないわが子を見て、足が一番早いのにもったいないなー、と思いつつドリブルが下手なので仕方ないな......。なんて見ていたら、3年の春に1人移籍、2月には3人移籍し、現在チーム崩壊気味です。

3年の春に移籍した子は凄い上手な子だったのでレベルの高いチームに行きたいと思っても仕方ないかなと思いますが、2月に移籍した1人はコーチの家族と10年近く仲良くしていたし、子ども同士仲良しに見えたので、コーチもダメージを受けているようで。

コーチも病み気味で、ちょっと前の公式戦も自分たちで考えろのみ。試合では1点も取れず、アドバイスもありませんでした。心配になってか2日目は他の学年のコーチもいてくれたけど、全敗でした。

何かおかしい流れになっているような感じで、1か月前からうちの子も他のクラブチームに行きたいと言い始めました。クラスに上手な子がいて、そこそこ強いチーム所属なのですが、そこに行きたいと。

うちが抜けてしまうと10人しかいないチームがギリギリになるし、同じ小学校の子2人も移籍したがっています。 移籍してもいいのかなとも思うのですが、コーチが病んでる感じで心配でもあります。

3、4年生ぐらいからクラブチームに移籍していく子が現れるのはよくあることなのでしょうか。コーチたちはいい人たちで、これまでお世話になってきましたし、どうしようか悩んでいます。

 

 

<島沢さんのアドバイス>

ご相談ありがとうございます。

相談文でしかうかがい知れませんが、慕ってくれていたと思っていた子どもたちが移籍してしまってショックだったのでしょうね。10年近くも家族ぐるみでお付き合いがあったのなら、なおさらショックが大きかったのでしょう。

育成において、勝つことだけが重要ではありませんが、負けたことに加えて選手移籍で負った心のダメージが大きくて、今は放心状態なのかもしれません。もちろん本心はわからないので実際にお話を聞いてみたいところですが。

 

■3、4年生で移籍するケースはほかの年代より多い

まずは、お母さんの質問にお答えしますね。
「3、4年生ぐらいからクラブチームに移籍していく子が現れるのはよくあることなのでしょうか」の問いですが、おっしゃる通り中学年で所属チームを替えるケースは他学年よりは多いかと思います。

低学年でみんな一緒に始めて概ね3~4年。もともとの運動能力や、サッカーの認知度が伸びる時期にも違うので、多かれ少なかれ力の差が表れ始める時期ではあります。ただし、コーチの技量があれば、チーム全体の底上げができますし、上手な子にはさらに高いレベルの課題を与えたり、育ちがゆっくりな子にはそこを踏まえた指導をしてくれます。

 

■欧州では移籍も出戻りも頻繁にある

それでも、力が飛びぬけた子どもは、その力量に合ったクラブのほうが自分は伸びる、もしくはレベルの高い集団でプレーしてみたいと考える場合もあります。そして、そのことを指導者も理解して、ご自分から「他のチームでやってもいいんだぞ」と背中を押すこともあるようです。そのようなコーチは、自分のチームを強くする、いい成績を残すといったことよりも、子どもがより楽しく、より成長することを第一に考えています。

伸ばしたいなら離れなさい サッカーで考える子どもに育てる11の魔法』(小学館)などでサッカー少年の子育てをアドバイスしてくださる池上正さんによると、欧州では、小中学校の年代では頻繁に移籍をするそうです。クラブも年間で数回セレクションを開き、選手を入れ替えると言います。

そうなると、強豪クラブに受かって入団しても、出場機会を失ったり、入ってはみたけれどレベルが高すぎてついていけない子どもも出てきます。そういった子は、強豪クラブを退団して町のクラブに戻ってきたりします。

そんな子どもを、町のクラブのコーチたちは「よく帰ってきたね。また一緒にサッカーしよう!」と笑顔で招き入れます。

 

■日本で出戻りが歓迎されない理由

これがもし、日本だったらどうでしょう?

もちろん、欧州のコーチたちと同じようにウエルカムな態度で迎え入れる大人もいるでしょう。でも、多くは「自分からチームを出て行ったくせに」とか「俺たちを捨てた」などと言って、そんな態度になれないような気がします。このことについてセミナーなどでコーチのみなさんに尋ねると、みなさん「欧州のようにはいかない。日本では考えられない」と口を揃えておっしゃいます。

そのように大人たちの態度が異なる理由は、指導をする喜びをどこに置いているかが違うからだと思います。チームの勝利を最初に考えてしまうのか、子どもたちの成長や楽しくサッカーをすることが第一なのか。

 

■子ども自身、何のためにサッカーをするのかを確認しよう

そして、ふたつめ。

同時に、お母さんも息子さんに「何のためにサッカーをするのか」「なぜチームを移りたいのか」を尋ねてみましょう。

エース級の子どもたちが次々退団して、試合に勝てなくなった。そこが面白くないとか「試合に勝ちたいから強いチームに行きたい」と息子さんが考えているとしたら、心を病んでいるコーチの方と同じ価値観になりませんか。

もちろん試合は勝つためにするものです。

しかし、サッカーは勝つためだけにプレーするわけではありません。自分の成長や、試合に出て、サッカーを楽しむ経験を積んで、楽しい気持ちを育むことが小学生時代は重要です。

「クラスに上手な子がいて、そこそこ強いチーム所属なのですが、そこに行きたいらしい」と書かれています。

子どもはある意味単純なので「強いチームで勝ちたい」「仲良しの友達と一緒のチームでやりたい」と考えます。そのチームが自分にとってプラスになるのか、そうではないかもしれないのか。そこは大人が一緒に考えてもいいでしょう。

息子さんはそこで試合に出続けて活躍できるのか。もしくは全員を同じように試合に出場させるチームなのか。指導者は、どんな人たちなのか。さまざまシミュレーションする必要があります。

 

  

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