サッカー豆知識

2019年8月26日

全員出場がチーム力UPに! すでに成果も出始めている、日本最大の私設リーグ「プレミアリーグU-11」で実践する「3ピリオド制」の効果とは

公式戦の少ない小学5年生(U-11)に、リーグ戦の経験を積ませるため、2015年に誕生した私設リーグプレミアリーグU-11。2019年4月にアイリスオーヤマとスポンサー契約を締結し、今シーズンから「アイリスオーヤマ プレミアリーグU-11」の名称でリーグを運営しています。

関東を中心に始まったリーグは2019年に4シーズン目を迎え、全国31都府県にまで拡大しています。アイリスオーヤマ プレミアリーグU-11実行委員長を務める、サッカーコンサルタントの幸野健一さん(ガナーズ市川代表)に、通年のリーグ戦を開催して感じたことについて、話を伺いました。

(取材・文:鈴木智之)

 

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アイリスオーヤマ プレミアリーグU-11が取り入れる「3ピリオド制」がこれまでの出場規定と違う点とは

 

■「3ピリオド制」がこれまでの出場規定と異なる点

――アイリスオーヤマ プレミアリーグU-11のレギュレーションは3ピリオド制ですが、この狙いはなんでしょうか?

幸野 ルールとして「全員最低1ピリオドに出場する」と決めています。これは、試合会場に来たのに、試合に出られなかった子を作らないためです。他の3ピリオド制をとっている大会では、「1ピリオドと2ピリオドで全選手入れ替え」というルールで出場時間を確保しているところもありますが、それだと8人×2ピリオド分で16人が必要ですよね。少子化の現在、1学年16人に満たないクラブも多いです。すると、4年生や3年生を連れていかなければいけないので、不本意な選手起用を強いられるクラブがあり、選手のためにもなりません。

 

――ルールを満たすため、人数合わせに下の学年から連れて行かざるをえないという、クラブ側に負担が生じるわけですね。

幸野 現場の人間としてはそれをなくしたかったので、プレミアリーグでは1回の試合で12人以上連れてくることを最低ラインとして、連れてきた選手は必ず1ピリオドは出場させるというルールにしました。すると、3ピリオド全部に出る選手もいます。上限は設けず、下限を決めて、全員に最低出場時間を確保するという考え方です。中心選手は3ピリオド全部に出られますし、現時点ではそれほど力がない子でも、最低1ピリオドは真剣勝負を経験できます。プレミアリーグ導入にあたり、全国の指導者と意見交換をしてきましたが、東京にいて感じる以上に、地方に行くと「メンバー固定で、上手い子だけが試合に出るのはあたりまえ」という風潮があります。小学生年代でそれをすると、長い目で見てサッカー界の損失なんです。

 

――過去のインタビューでは、そのあたりについても言及されていますね。

幸野 はい。プレミアリーグの会議のときに「この中にレギュラーしか出さない監督はいないですよね?」と聞くと、シーンとなる。でも、そういう人たちにこそ、プレミアリーグに参加してもらって体験し、学んでほしい。指導者の経験値を高める意味でも、年間を通じたリーグ戦をすることの意義は大きいと思っています。

 

■欧州では子どものころからホーム&アウェイのリーグ戦がベース

――欧州を始めとするサッカー強国では、年間を通じたリーグ戦というフォーマットがベースで、それは育成年代でも変わりません。子どもの頃からホーム&アウェイの戦いを経験し、それが積み重なってプロになります。大人のプロリーグでも、ホームとアウェイの戦い方が違うチームが大半です。

幸野 日本の場合、ホームとアウェイの差はそれほどないですよね。一部の熱狂的なサポーターがいるクラブはホームアドバンテージがありますが、「ホームで長い間勝てない」というクラブも珍しくありません。うちの息子(幸野志有人/V・ファーレン長崎)も、実際にプロになって、「Jリーグはホームとアウェイの違いがあまりない」と言っていました。アイリスオーヤマ プレミアリーグU-11では、欧州の選手たちのように、子どもの頃から年間を通じたリーグ戦をホーム&アウェイで行い、同じ相手と年間2試合戦うことで、前節の試合を振り返ってトレーニングし、次の試合に活かすというサイクルを回せるようにしています。

 

――ホーム&アウェイを分けるとなると、グラウンドを持っていないクラブは不利になりませんか?

幸野 アイリスオーヤマ プレミアリーグU-11千葉を例にあげると、柏レイソルやジェフユナイテッド千葉、ウイングス、それにガナーズ市川は専用の人工芝グラウンドを所有しているので、いずれかのグラウンドを使い、一極開催のセントラル方式で試合をすることが多くありました。運営側としては、子どもたちに質の良いグラウンドで試合をさせてあげたいと思っていたのですが、近年はプレミアリーグのタイトルの価値が上がってきたことから、各クラブがより勝利を目指すようになってきました。すると何が起きるかというと「質の良い人工芝のグラウンドで試合をすると、そこを普段使っている強豪クラブに勝つ確率は低い。自前でクレーのグラウンドを用意し、ホームゲームはそこで試合をしよう」と考えるクラブが出てきたのです。

 

――まさにホーム&アウェイの考え方ですね。

幸野 そう。それが本来のホーム&アウェイなんです。Jクラブやうちの選手たちなど、普段、人工芝でプレーしている選手が、芝のピッチ以外で試合をする経験も積めます。異なる環境でも力を発揮するトレーニングになりますよね。慣れ親しんだホームでの戦い方、普段とは異なるアウェイのグラウンドでの戦い方を経験する。それこそがホーム&アウェイの意義のひとつです。この経験を積み重ねていった選手たちが、大人になるに連れてホームとアウェイの戦い方を身につけていくわけです。リーグ戦を表面上や形式上、真似をしても意味がありません。だから、育成年代でリーグ戦をやることは、プロの発展にもつながると思っているんです。

 

■M-T-Mが落ち着いてできるから強化の底上げに。育成年代でリーグ戦をやる意義 

幸野 毎週、同じレベルのチームと年間を通して試合ができること、『M‐T‐M』(試合-練習-試合)が、本当の意味で落ち着いてできることなど、リーグ戦に参加することで、初めて良さがわかったという声が挙がっています。リーグ戦なので同じ相手と2回試合をします。1試合目で出た課題を抽出して修正し、次の試合に挑む。そのサイクルを1年かけて行い、チームを作り上げていきます。それを年間スケジュールの中で、落ち着いてやり、目先の勝ち負けに一喜一憂しない状態を作るのには、リーグ戦が最適なのです。

 

――勝ち進むまで相手がわからないトーナメント戦や1DAYの試合形式では、相手の対策を立てたり、試合を振り返り、次に活かすことがしにくい環境です。

幸野 育成年代で、二度とやらない相手とばかり試合をしても意味が薄いですよね。フィードバックを試す場がないですから。育成年代こそ強化の積み上げが大切で、ヨーロッパは8歳頃からリーグ戦が始まり、選手も指導者にも経験が積み上がっていく。年に同じ相手と2回やるので、選手たちもしっかり学びます。その積み重ねを育成年代から10年以上やるのがヨーロッパで、試合をして終わりの日本とは決定的に違います。日本と世界の差は、ここに集約されると思います。個人戦術、グループ戦術の積み重ねが、18歳、19歳になったときになって出てくるんです。

 

――最後に、プレミアリーグの今後の展望を教えてください。

幸野 ある県では、プレミアリーグを県サッカー協会公認の公式戦として、認める動きが出てきています。シーズン終了後に開催する、各都府県の優勝クラブが集まる大会「アイリスオーヤマ・チャンピオンシップ」は、被災地支援を目的に、アイリスオーヤマの本社がある東北で実施する予定です。「U-12は鹿児島、U-11は宮城を目指す」を合言葉に、リーグ戦や大会を運営するだけでなく、日本のスポーツ文化に貢献できればと思っています。

 

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幸野健一(こうの・けんいち)
サッカーコンサルタント、FC市川GUNNERS代表
10歳よりサッカーを始め、17歳のときにイングランドにサッカー留学。以後、東京都リーグなどで40年以上にわたり年間50試合、通算2000試合以上プレーし続けている。
日本のサッカーが世界に追いつくためにはどうしたらいいかを考え、育成年代を中心にサッカーに関する課題解決を図るサッカーコンサルタントとして活動中。
FC市川GUNNERS(旧アーセナルサッカースクール市川)代表に就任し、スクールの運営でも手腕を発揮している。
2015年に創立し、2019年7月現在31都府県が参加する日本最大の私設リーグ「アイリスオーヤマ プレミアリーグU-11」で「3ピリオド制」を導入。欧州のように小学生年代から年間を通じたリーグ戦を通して選手の成長につなげる取り組みを実施している。

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