サッカー豆知識

2018年6月21日

ドリブル、パス...個人技だけではサッカーが上手くならない! ドイツの育成クラブが推奨する選手を伸ばすトレーニング

ドイツでサッカーコーチとして活動するかたわらサカイクにも寄稿する中野吉之伴さんが、ブンデスリーガにおけるそれぞれのクラブの立ち位置によるクラブ運営や選手育成事情をご紹介します。

日本でもクラブごとに様々な理念で運営されていると思いますが、「人を育てる」ことに重きをおいた育成大国ドイツのやり方も参考になる部分があるのではないでしょうか。(取材・文:中野吉之伴)

(写真は少年サッカーのイメージです)

■既存のやり方に満足しないこと 新しいことに挑む姿勢がタレントを生み出す

昨シーズンブンデスリーガで4位となったホッフェンハイムは、2008年に初めて1部に昇格した新興クラブです。世界有数のコンピューターソフトウェア企業SAP会長デットマール・ホップからの支援をバックに短期間で急成長。今季もCL出場権争いに加わっており、ダイナミックかつ繊細なサッカーは識者の間で非常に高い評価を受けています。

昇格当初は、伝統を重んじる気質が根強いドイツではなかなか他クラブのファンから認められず、「金の力で成り上がりやがって!」という反発がありました。でもホッフェンハイムはただ資金力だけで成長してきたクラブではありません。クラブ予算で言えば、もっと潤沢な資金を持つクラブもたくさんあるなか、彼らは目の前の結果だけにとらわれずに、常に「将来」を見据えた取り組みをしてきました。トップチームだけではなく育成への投資を惜しまずに、人を育てることと真摯に向き合ってきたからこそ、ここまでの成長を成しえることができたのです。

僕の教え子であり、フライブルクの強豪クラブ「フライブルガーFC」でU16-17を統括する立場にいるルカ・モルドル(24)は20歳のころ、そんなホッフェンハイムで1年間の研修を受けていました。データ整理やスカウティングの手伝いといった雑務をこなす傍ら、U14やU15チームに帯同し、現場でもいろいろな経験を積ませてもらったそうです。身近でクラブの哲学に触れてきた彼が、僕に熱っぽく語ってくれたことがありました。 

「ホッフェンハイムには非常にはっきりとした育成コンセプトがあります。指導者にしても非常に若くて向学心があって、野心がある指導者がそろっています。現在プロのトップチームで監督をしているユリアン・ナーゲルスマンやシャルケ監督ドミニク・テデスコはその代表格で、育成クラブとして選手を育てていくというのに加えて、指導者のタレントを集めて、クラブで育てようとしているんです。指導者が何人も行き来することもあるけど、それでもクラブとしてのコンセプトがぶれることはなく、現場に落とし込まれているというのはすごいことだと思うんですね」

ではクラブとして育成コンセプトをどのように築いてきたのか。今年2月にU10-U13総監督パウル・トラスさんと話をする機会がありましたのでその時の話をご紹介したいと思います。

「クラブの育成コンセプトが完成したのが10年前。ちょうどトップチームが1部に昇格を果たした時ですね。ブンデスリーガクラブという立ち位置ができたことで、育成への投資の可能性が一気に膨らみました」

 
「その中で柱となる考え方は?」と尋ねると、「勇敢に」「革新的に」という二つのキーワードを出してくれました。よりスマートに、よりスピーディに、より変化に富んだサッカーができるように、既存のやり方を踏襲したうえで、そこで満足せずに新しいことにどんどんチャレンジしていくのです。

一番大切なのが試合への出場機会。そのため現時点での力関係でスタメンを固定することなく、U-15ではリーグ戦、トレーニングマッチの総試合時間の50%以上に全選手が出られるように気をつけているそうです。当然、その下の小学生年代ではそれ以上の出場時間が確保されています。

チーム練習の頻度は小学生年代では週に3回+週に1回の個別トレーニングが組まれています。試合は週末に1試合。個別トレーニングではU-14までは総合的な技術関連、プレーインテリジェンスに関するトレーニング、U-15からU-19までは全員が対象ではなく、各年代からえりすぐりの選手だけがそれぞれのポジションに必要な技術、戦術の補足トレーニングが行われるそうです。

「でも個の力を伸ばす=個に特化したトレーニングではないんです」

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