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サッカー豆知識

成長著しいアメリカのMLS(メジャーリーグサッカー)と、アメリカのジュニアサッカー事情

公開:2012年7月 5日 更新:2012年7月 6日

キーワード:文武両道海外サッカー

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 アメリカといえば、サッカー不毛の地――。『固定観念』という言葉を説明するのに、これほど分かりやすい例はないかもしれません。

 昨今のアメリカサッカーは大きく変化しつつあります。2012年のMLS(メジャーリーグサッカー)の平均観客動員数は、1万9千人(Jリーグは1万7千人)。MLSはすでにJリーグの観客数を抜き去りました。また、シアトルでは野球とサッカーの逆転現象も起こっています。イチローが所属するシアトル・マリナーズが長期低迷に悩み、スタジアムの空席が目立つ中、MLSのシアトル・サウンダーズは毎試合4万強のチケットが完売する人気チームへと成長しました。
 現在は19チームで行われているMLSですが、来季には20チーム目が加わる予定であり、その新規フランチャイズ加入料はなんと50億円。2005年には7億円であったことを考えると、ここ数年におけるMLSの発展には目覚しいものがあります。
 MLSとJリーグの観客数の比較については、「今年のJリーグは雨が多いから」「震災の影響が残っているから」と、さまざまな原因が思い付くかもしれませんが、筆者はそのような些細な数字の小競り合いをするのは、全く重要ではないと考えています。むしろ注目すべきは、ここ数年、観客動員が頭打ちになっているJリーグと、着実に伸ばし続けているMLSという現実。その本質を見極めることが重要ではないでしょうか?
 
 今回は、2005年からMLS国際部に日本人として初めて起用され、現在はLeadOFF Sports Marketing社のゼネラルマネージャーを務める中村武彦氏にインタビューを行い、構成しました。なぜ、MLSが成長を果たしたのか。そして、サカイク読者との接点でもあるアメリカの少年少女のサッカー事情についてもお話を伺いました。
 
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なぜ、MLSは成長を果たしたのか? 日本が学ぶべきところは?

 「MLSとJリーグでは、投資の仕方が真逆なんです。Jリーグは創設以降、ピッチ上にたくさんのお金を使い、有名な選手を世界中から呼びました。そして20年が経った今、自前のスタジアムを持つクラブはなく、また、クラブのフロントにもプロの経営者やビジネスマンを今以上にもっと増やしたほうが良いのではと感じます。ではMLSはどうかと言えば、MLSはインフラと経営基盤に投資を行い、例えば選手よりも高いお金でプロの経営者を呼んで来たりしました。その結果、MLSは17年が経った今、ピッチ上の結果に左右されなくても安定した経営をできる基盤が整っているのです」(中村氏)
 
 Jリーグのクラブでは、今でもスポンサーや地方自治体に対して、「優勝すれば観客は増える」「J1に昇格を果たせば盛り上がる」という結果ベースの説明をすることが少なくないと、筆者は多くの関係者から聞いています。しかし……、
 
 「試合の勝敗に依存するのは博打と同じです。クラブ経営はビジネスとして回るようにする必要があります。MLSも最初は『不毛の地』と世界中からバカにされながらも我慢して地道な経営を続け、それが近年になって成果を生むようになりました。フォーブス誌は、現在のロサンゼルス・ギャラクシーを100億の価値があるクラブと査定しています」(中村氏)
 
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 勝敗に左右されない経営を目指すクラブとしては、日本では川崎フロンターレが有名ですが、そのような明確なビジョンを持つクラブは少数派。筆者は実力の拮抗したクラブが毎試合白熱した攻防を繰り広げるJリーグは、世界的に見ても非常に魅力的なリーグだと感じていますが、一方では、ビジネス経営のプロが少ないことが、Jリーグ発展の足を大きく引っ張っていると言っても過言ではないでしょう。さらに、中村氏はJリーグの国際感覚についても疑問を呈します。
 
  「例えば韓国のKリーグ、中国のスーパーリーグには国際部があり、問い合わせると英語がペラペラな人が出てきますが、このような視点で言えば、日本はまだまだ成長の余地があるように感じます。例えばMLS機構はイギリスから人材を呼んだりするし、クラブ単位でもヒューストン・ダイナモがプレミアリーグに直接連絡を取ったりもする。頻繁な国際交流があるかないか、それだけで差が出来てしまいます」
 
 海外からこのような印象を持たれているのは、少なくともJリーグにとって解決すべき課題と言えるのではないでしょうか。近年、Jリーグと東南アジアの連携など、徐々に国際的なビジネスが進み始めているのはポジティブなことですが、その発展が遅れている印象は否めません。クラブの経営ビジョンの話を含め、すべてをMLSからコピーする必要はありませんが、我々が取り入れ、学ぶべきことは多いのではないでしょうか。
 
 

サッカーママ(soccer mom)が生まれた背景

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 アメリカでは昔から少年少女のサッカーが非常に盛んです。その主な理由としては以下が挙げられます。
 
  • サッカーはチームの協調性が非常に重要なスポーツなので、社会に出てからの協調性を学ばせたい
  • アメフトなどに比べると身体的な危険が少ない
  • 女の子もプレーできる
  • それほど用具を必要としないので、お金に余裕がない家庭でもできる
 
 このような理由から、アメリカでは自分の子どもにサッカーを学ばせようとする母親が増えました。今はもう廃れた言葉ですが、グラウンドへの送迎を行う忙しい母親たちには、「サッカーママ(soccer mom)」、教育熱心な母親というあだ名が付けられたほどです。日本語で言う「教育ママ」のように少し皮肉めいたニュアンスもありますが、アメリカではそれほど教育とサッカーの関わりは深かったのです。
 
 そして中村氏は、アメリカで教育とサッカーが結びついた、もう一つの大事な理由を語ってくれました。
 
 「アメリカではスポーツをやっていれば、奨学金で大学へ行ける可能性が高いのです。アメリカの大学は、お金が日本の2~3倍かかるので、学生ローンを組むのが一般的。それが免除になるのは非常に大きいです。日本でスポーツ推薦といえば、対象者は一部のメジャー選手に限られると思いますが、アメリカではそれほどうまくなくても、奨学金をもらい、学費などを免除されてスポーツをやっている子どもが多いです」(中村氏)
 
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 なぜ、アメリカは大学スポーツで奨学金をもらえる間口が広いのでしょうか?
 
 「アメリカでは大学スポーツが巨大なビジネスとなっています。テレビ放映権による収入があり、名門大学の1試合の売り上げはアメフトで2億円くらいあります。監督も年俸1億くらいもらっています。大学のスポーツ店がナイキやアディダスと提携してグッズを売っていたり、スポンサーもきちんと付いています。予算規模が大きいので、選手の獲得として奨学金を大きく使うことができるわけです」(中村氏)
 
 このような環境が、アメリカにおける少年スポーツを支えています。その中でもサッカーが選ばれることが多い理由を聞くと……。
 
 「サッカーはチームスポーツなので、1人にだけ奨学金を出すのではなく、例えば3人に分割して部分的な奨学金を渡すなど、薄くして選手の間口を広げることも多くあります。特に弱い大学ほど、そういうメリットを出さないと選手が来てくれないので。さらに、女の子にとってはスポーツの選択肢が少ないので、サッカーはチアリーディングと並び、花形スポーツです。アメリカはシーズンによっていろいろなスポーツをやるのが当たり前なので、陸上とサッカーをやっていて、陸上のほうが良いオファーが来たからそっちへ行くなど、選択することもできます」(中村氏)
 
 みんなが広くはじめることができて、みんなが楽しめて、みんなが学べるスポーツ。それがサッカー。さらに少しでも選手としての芽が出そうなら、奨学金をもらって大学へ行くことができるというわけです。
 
「アメリカは基本概念としては文武両道。一定以上の成績を取れなければ、部活動は参加禁止になります。そういう背景があるため、就職の際には、“スポーツをやっていた”と言えば、“ちゃんと勉強もしてたんだね”と受け取ってもらえます。選手を引退したら、例えばモルガン・スタンレーに入社したり、あるいは個人事業を始めたり、MLSのスタッフとして働いている人もいますよ。もちろん、みんながみんな優秀とは言えないので、ズルをしてテストをクリアしようとして問題になったバスケットボールの選手もいましたが……」(中村氏)
 
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 インタビューの最後には、サカイクについての印象も語って頂きました。
 
 「サカイクを拝見させて頂きましたが、非常に素晴らしいと思いました。サッカーを通して色々なことを学ぼうとするのは良いと思います。僕も経験しましたが、一般人がいきなり外国へ行って生活するのは難しい。だけど、例えば外でボールを蹴っていたら自然と学生が集まってきたりとか、日本人なのにオランダサッカーに詳しかったり、アメリカ人なのに中田中村に詳しかったり、グローバルな広がりにはいつも感心させられています。サッカーは英語、スペイン語以上に世界中で話されている言葉なので、海外に行けば下手くそでも一緒にプレーできます。そういうことは野球や他のスポーツよりも可能性を広げてくれるのかなと。僕も海外に出てその恩恵に預かっている1人ですから」(中村氏)
 
 人生を豊かに生きるために、サッカーがある。サッカーを活用できる。それは筆者が常日頃から考えていることでもありました。アメリカのサッカーから、改めて我々が学ぶことは多いのではないでしょうか。
 
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取材・文/清水英斗 写真/サカイク編集部

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