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サッカー豆知識

ネイマールをはじめとするブラジル人が継承する "ジンガ"の伝統

2014年4月 2日

キーワード:テクニックブラジル

世界的にも卓越したテクニックを身に付けてきたブラジルのサッカー選手。その理由の1つとして、俗に「ブラジル人はサッカーボールを抱いて生まれてくる」と言われるほど、小さい頃からボールに親しむ習慣が根付いています。また、喜びを意味する“アレグリーア”を大切にしてきたこと、さらにはお手本となる名選手から継承されてきた伝統とプライドも理由の1つと言えます。
 
Brazil1_600.jpg
"Futebol" by Julio Guima
 
ブラジルの選手が生み出す独特のリズムを武芸カポエイラの基本ステップにちなみ“ジンガ”と呼ぶこともあります。カポエイラにおけるジンガの役割は相手にじわじわプレッシャーをかけながら、直後に繰り出す技の予備動作となることで、サッカーのボールキープに通じています。ブラジルの選手はボール扱いが正確なだけでなく、ステップや重心の移動を伴いますが、文化的な影響もあるでしょう。
 
 

■サッカー史上最高の選手を生み出したブラジル

草創期から数多くのテクニシャンを生み出してきたブラジルですが、世界的に名声を博したのが“オ・レイ”(王様)の愛称で親しまれるペレです。1958年のW杯で初優勝の立役者となったことに加え、前線と中盤の間を起点としながらチャンスを作り、得点も決める“10番”のイメージを定着させたことも、今もって“サッカー史上最高の選手”と評価される大きな理由でもあります。
 
ペレはボールを扱う技術が極めて高く、トラップ、ドリブル、キックの全てが正確でした。もちろん足下の技術は高かったのですが、この名選手の才能を決定付けていたのは超人的なボディバランス。過去の映像を見ると多くの場面で軸足が完璧なまでに重心を支えており、また空中でもボールを正確に扱う姿勢が出来ていました。
 
58年W杯でペレと共にウィングから攻撃を彩ったのがガリンシャという選手です。“魔法の小鳥”とも形容されたドリブラーは左右に揺れるまさに“ジンガ”の動きから、鋭い切り返しでDFの逆を取り、時に相手の股を抜くプレーでディフェンスを翻弄しました。中盤から攻撃を支えたジジという選手はシンプルに正確なパスをつなぎ、現在のボランチ像に多大な影響を与えています。またジジは恐るべきキック力の持ち主で、縫い目が無くてパネルも少なく不規則な変化や無回転をしやすい現在の公式球とは違う、昔のボールで実現させたフォーリャ・セッカ(枯れ葉)の使い手としてあまりにも有名です。
 
70年W杯ではペレがより司令塔的な役割を担い、周囲でリベリーノ、ジャイルジーニョ、トスタン、カルロス・アウベルトといった名だたるテクニシャン達が躍動しました。中でもリベリーノは現在ではフェイントの基本形ともなった“ペダラーダ”を広めた選手で、特に外から内側にまたぎ、つま先のアウトで外に持ち出してかわす逆側のまたぎフェイントはリベリーノと呼ばれました。リベリーノはその後、ブラジルのドリブラーにとってお手本となり、ロビーニョやネイマールの系譜にもつながります。
 
82年W杯のブラジルは準々決勝でイタリアに敗れてしまいましたが、現在でも“最も美しいチーム”と評価する声は多いです。ジーコを主軸として、ソクラテス、ファルカン、トニーニョ・セレーゾと、どのチームでも攻撃の中心を担える4人の選手たちが“黄金の中盤”(QUATRO HOMEN DE OURO)を形成し、圧倒的なパスワークと技巧的なドリブルを織り交ぜて試合を支配しました。ジーコは柔らかく芸術的なラストパスやGKの頭上を越えて落ちるミドルシュート、FKなど様々なキックでファンを魅了しました、中でも本人が「最高のシュートの1つ」と語るヒールでのボレーシュート。その他にも、後方の味方からきたパスをノートラップで合わせる足技で多くのゴールを決めていました。
 
Brazil2_600.jpg
"Soldier Field Stadium" by bruna camargo
 
 

■『黄金の中盤』からバランス重視、そして3Rの攻撃へ

その1982年と対照的に攻守のバランスを重視したスタイルで4度目の優勝を飾ったのが今から20年前の94年大会です。中盤が確実にボールを運び、ロマーリオとベベットの2トップが決めるという形がしっかりと確立されたチームでした。その大会でMVPに輝いたロマーリオはペナルティエリア内で仕事をするタイプでしたが、ボールタッチは極めて柔らかく振り足が鋭いため、GKはしばしば反応すらできませんでした。
 
彼の代名詞が“ラーボ・デ・バッカ”(牛のしっぽ)と呼ばれる、後ろ向きからインサイドにボールを引っかけ180度ターンする技であり、バルセロナ時代にレアル・マドリーとのエル・クラシコで見事なゴールを決め話題をさらいました。またGKを鮮やかにかわして、無人のゴールに流し込むフィニッシュも得意としており、ペナルティエリアの中では史上最高の選手の1人でしょう。
 
相棒のベベットは正確な足技もさることながら、神出鬼没の動きで違いを生み出した選手です。仲間と交差しながら飛び出す“クロスオーバー”やマークを一瞬の動きで外側に外す“プルアウェー”の名手として知られていました。DFラインの裏に抜け出す動きも絶妙で、味方のスルーパスから流し込むゴールはまさに芸術的でした。
 
02年の日韓W杯ではロナウド、リバウド、ロナウジーニョの“3R”が攻撃の中心を担い優勝に導きました。その大会で得点王に輝いた若き日のロナウドは、爆発的なスピードを活かした突破で“フェノーメノ”(超常現象)と恐れられましたが、膝の大きな負傷で直線的な高速ドリブルは失ってしまいます。その代わりにキャリアの後半は、密集でのボールキープやトラップからの切り返しでマークを外す動きなどを駆使して、技巧的なゴールを量産しました。特に右足のインサイドで左足の後ろにボールを通す“ヒールチョップ”は鋭く、鮮やかなシュートにつながり多くの観客を魅了しました。
 
リバウドは軸足の前に逆の足をクロスさせてボールを蹴る“ラボーナ”の名手として知られ、チリ人の選手が初めて試合で披露した逸話から“チレーナ”と呼ばれるオーバーヘッドキックも得意としていました。4年後のW杯で文字通りエースとなるロナウジーニョはあげたら切りがないほど多彩な技を繰り出しましたが、アウトにボールを出すと見せかけてインサイドに引っかけて相手の逆を取る“エラシコ”は彼を表す象徴的なフェイントとして、サッカー教室などでも見本として披露していました。
 
 

■受け継がれ、そして進化していく美しいブラジルサッカー

そうした先人たちの“ジンガ”を高次元に引き継いでいる選手がネイマールであり、独特のリズムでボールを操りながら、ペダラーダやリベリーノはもちろんのこと、時にトラップでボールを頭上に浮かせながら相手の裏を取る“シャペウ”や踵にボールを引っかけて蹴りあげて相手の裏を取る“ヒールリフト”といった大技も見せる。そうしたエンターテインメント性は素晴らしく、試合では相手の意表を突き、ゴールに結び付けることが要求されるのがブラジルサッカーの神髄です。
 
現役のブラジル代表選手でもオスカーはネイマールの様なトリッキーな技を多用するわけではありませんが、周囲の流れにシンクロしながらパスを引き出し、狭いエリアに自分のスペースを見出し、絶妙のパスや味方との素早いワンツーで決定機を生み出せる名手です。彼が特に優れているのが密集での“引き球”の使い方で、相手DFがタックルに来る瞬間に足の裏でボールを引き、角度を変えて好パスやドリブルでの持ち出しにつなげていきます。またパスの種類が豊富で、つま先で上げる浮き球のシュートクロスは多くの得点をアシストしています。
 
歴代のブラジル人選手たちが披露して来た高度な技も、サッカーの試合において得点に結びつかなければあまり意味が無いものです。サッカーの醍醐味であるゴールをめざす中で見せる美しさに注目し、ブラジル代表のプレーをぜひとも親子で楽しんでみてください。
 
河治良幸(かわじよしゆき)//
サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で日本代表を担当。プレー分析を軸にグローバルな視点でサッカーの潮流を見続け る。セガ『WCFF』シリーズの開発に携わり、手がけた選手カードは5000枚を超える。著書に『勝負のスイッチ』『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』『日本代表ベスト8』など。3月には共著の『サッカー日本代表 個の力の本当の意味』を刊行。Twitter IDは @y_kawaji
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文/河治良幸

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