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運動能力

不安定なバランスをコントロールするネイマールの身体の使い方

2014年7月 7日

キーワード:コーディネーションストレッチスピードトレーニングワールドカップ体幹練習

ワールドカップでは、開催国のブラジル代表をけん引する活躍を見せてきたネイマール。準々決勝のコロンビア戦で腰椎骨折の重傷を負い、惜しまれながらも残り試合を欠場することになりましたが、彼が世界トップクラスの選手であることに疑いの余地はありません。
 
いったいネイマールのなにが、ほかの選手より優れているのでしょうか。西洋と東洋両方を組み合わせた独自の身体観やトレーニング方法で、アスリートや同業者から高い評価を得ている理学療法士の波田野征美さんにお話を伺ってきました。
 
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インタビュアー:Oriental Physio Academy 写真:田川秀之
 

■不安定な状態をコントロールするネイマール

――ネイマール選手についての評価を伺います。波田野さんは、ネイマール選手の動きについてどういう評価をしておられますか?
 
いや、すごいですね。メッシとはまた違うタイプです。見て思うのは、まずスピードがものすごく速いということ。トップスピードのまま動いている、止まらない、そういう印象を受けます。
 
メッシはストップアンドゴー、緩急をすごくうまく付けてかわしていくけど、当たられると割と簡単に吹っ飛んでしまう印象です。しかしネイマールは柔らかくて、当たられてもいなしてしまう。そして相手を抜いていくときの身体の角度、それが非常に深いですね。
 
身体を非常に深く傾けられる、エッジが効いている。普通の選手ならそのまま滑ったり倒れてしまいそうな角度まで傾けても、ネイマールは次の足が出てくる。身体のバランスが不安定な状態を、常にコントロールしている印象です。
 
――普通の選手なら倒れてしまうような不安定さを常にキープしている、だから速いと。
 
そもそも、動くとは「不安定さを作り出す」行為です。支持基底面、つまり身体を支えるために地面と接している部分(足のうら)から、重心を外側に出すことです。逆に、重心が内側にしっかりとあるというのが「安定している」ということです。しかし安定していると動けないわけで、動くというのは身体を支えるために地面と接している部分から重心を外すという動作です。この動作が、足を地面から離して再び地面に着地させる動作になります。
 
そのままだと倒れるので、「バランスがいい」というのは、つまり、動くために一度地面から足を離して再び地面に落とす動作が上手いということです。ネイマールはその能力がケタ外れに高いですね。つねに重心を地面についている足の外に出して、倒れる倒れないギリギリのところで新しい足の踏み場を臨機応変に作っている。
 
また、選手を抜いていくときにネイマールはものすごく身体を倒しているので、抜いたらもうディフェンダーの裏に身体が入ってしまっているんです。だから、ディフェンダーは、まったく付いていけない。もう相手の背中側に回っているんです。
 
――これは、重心が先に動いているから速いということなのでしょうか?
 
そうです。そして、重心が遠くに落ちれば落ちるほど、速いわけです。普通の人は、そんな遠くまで次の足が出ないわけです。だから転んでしまうのですが、ネイマールは足が出る。だから転ばずにあのスピードを維持できるわけです。
 
100メートル走に例えると、100メートル走には「加速期」「維持期」「減速期」があります。どんなに速い選手でも、必ずゴール間際ではスピードが落ちてきます。そして、その時期を分けるのは体幹の傾きです。加速期はとにかく身体が倒れて、転ぶのを防ぐために足が前に出て、そこで重心がまた前に出て、転びそうになるところでまた足が出る。
 
その限界のスピードになってきた時に、身体が起き上がって維持期に入っていって、やがて減速期になります。ウサイン・ボルトは、身体が前に倒れている時間がすごく長いんです。ネイマールも同じようにこの加速期が長く、しかも深く身体を傾けられるから一歩目から速いのです。前に進むだけでなく、横に動くときにも同様のことが言えます。
 
――「ネイマールは横に進むスピードが速い」という話は漠然と聞きましたが、こうして身体の動きから解説されると非常にわかりやすいです。
 
ネイマールは、動物で例えるならネコに近いイメージですね。強さもあるけど柔らかく、ディフェンスの当たりを吸収できる、そして先ほど述べたように不安定をコントロールしている。転ばないでいられる能力が、非常に高いと思います。
 
――ネイマール選手のようになるためには、どういう練習をしていくと良いのでしょう?
 
足を素早く振り出せて、なおかつ可動域を広く大きく使えることが重要です。やはり重心を崩して速く動いたとしても、そこに足を出せないと行けません。可動域に関して言えば、毎日ストレッチをすることが有効です。そして、そこに足がついてこないといけないので、足を振り出すことに関して言えば大腰筋を鍛えるトレーニングを積むと良いと思います。
 

■ネイマールの怪我は選手生命に関わる!?

その後、皆さんご承知のように2014年7月4日に行われたワールドカップ準々決勝コロンビア戦で、DFスニガ選手に受けたチャージが原因でネイマールは腰椎骨折の重傷を負ってしまいました。  
 
ネイマールが痛めたという、腰椎の3番(第三腰椎)がどういう働きを持つ部位かを解説させていただきます。まず、腰椎というのは脊椎の一部です。脊椎は4つの部位(頚椎・胸椎・腰椎・仙椎)に分かれており、ネイマールが負傷したのは5番まである腰椎のうちの3番というところになります。
 
腰椎3番というのは、重心にも深い関わりがあり、正常な姿勢では腰椎3番に重心が通ります。しかし骨折の影響でここの動きが悪くなってしまうと、重心のコントロールに大きな影響を及ぼします。 また腰椎3番は、太ももの神経に関係している部位でもあります。その神経にダメージを受けることがあれば、最悪の場合現役続行に関わる危険も出てきます。そうでなくとも、上記のとおりネイマールの大きな特長に関わる部位を痛めたことは間違いありません。
 
ネイマールの受傷時の痛がり方も気になります。私は勤務するクリニックで高齢者を多く見ていますが、高齢者の方でも腰椎が折れていても「何か痛いな」ぐらいの反応だったりするんです。レントゲンを撮ってみて、初めて骨折に気づくということもあります。あれだけ痛がるということは、打撲のダメージもあるのだとは思いますが、相当大きなダメージを受けている可能性が高いです。今は、とにかく一日も早い快癒をお祈りします。
 
 
波田野征美(はたの・まさはる)
Oriental Physio Academy代表。理学療法士。体軸ヨガインストラクター。経絡ヨガインストラクター。ホリスティックボディワーカーHB150。自身が自転車競技者としてトレーニングをする中で従来の西洋的なトレーニング方法に疑問を感じる中で、古武術に出会う。西洋と東洋両方を組み合わせた独自の身体観、トレーニング方法はアスリート、スポーツ愛好家、さらには同業者からも高い評価を得ている。
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