サッカーの指導が学べる動画配信サービス「COACH UNITED ACADEMY」では、強豪チームや豊富な実績を持つ指導者によるトレーニング動画や、指導していく中で必見な理論や情報を配信中だ。

今回のテーマは「小学生『男女混合』から中学生『女子チーム』まで、女子サッカー指導の基礎」。講師はアルビレックス新潟レディースでゼネラルマネージャーを務める小川貴史氏と、アシスタントコーチ兼フィジカルコーチのモク・ソンジョン氏だ。

後編では「思春期の変化に合わせた指導とチーム運営」について語ってもらった。月経管理、ACL損傷予防、相対的エネルギー不足など、女子選手特有の課題にどう向き合うべきか。現場での具体的な取り組みを紹介する。（文・鈴木智之）

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月経管理とアプリを活用したコンディション把握

アルビレックス新潟レディースのジュニアユース、ユース年代では、アプリを活用した選手の体調管理を実施している。モクコーチが現場での取り組みを説明する。

「睡眠時間、起床時間、月経の日数や量などを毎回確認して、その中で怪我の頻度もトレーナーの方でチェックしています。月経が多い時は怪我のリスクが高いので、そういう時は動きを注意するなど、データをもとに対応しています」

女子選手に多い膝の前十字靭帯(ACL)損傷について、モクコーチは身体構造の特性から解説する。

「女性は骨盤が広くて、その内側に膝があって足首があります。外から内側にそもそも入っているので、止まる時に内側にグニャっと入りやすいんです。そのため、正しい足の置き方、曲げ方、止まり方を中1年代から徹底的にやっています」

筋力面でも男性に比べて弱いため、チューブトレーニングやスクワット、ランジなどの動作づくりを繰り返し行っているという。

　

　

相対的エネルギー不足への対応

思春期の女性となると、外見や体型の変化に敏感だ。モクコーチは、つい最近起きた事例を紹介する。

「アカデミーのある選手がダイエットをしていて、理由が『動けないから』だったんです。でも実際は食べないから、エネルギーがなくて走れなくなっている。それなのに『痩せないと走れない』と思い込んでいる。そもそもの考え方が違うんです」

女子選手は「太ってはいけない」という思い込みから、若い年代で無理なダイエットをしてしまうケースがある。

モクコーチは「お菓子をバナナに代えてみるといった提示をしました。食べなかったら生理も止まりますし、頭も回らなくなってイライラする。そういうところも気をつけています」と振り返る。

小川GMは、明らかに動けない状態が続く選手には「血液検査を提案することもある」と話す。

「鉄分が不足すると、明らかに走れなくなります。実際に病院で鉄剤をもらって数値が上がり、回復する選手もいます。本人に様子を聞いたり、保護者に情報共有するのは大事なことだと思っています」

育成年代でのトレーニングデザイン

小川GMは、女子選手のトレーニングにおいて「サッカーの原理原則や本質を大事にしながらトレーニングすること」の重要性を語る。

その中で「女子選手はまだまだ成功体験の積み上げが少ないと思っているので、より多くの選手が成功体験を積めるようなデザインが必要です」と、指導者が意識すべきポイントを明かす。

フィジカルコーチとして活動中のモクコーチは、「正しい動きの獲得」に力を入れているという。なぜなら、動作の質を上げることが怪我の予防になり、サッカーの動きに近づくからだ。

「片足でしっかり踏ん張れない選手は、キックを蹴る時も踏ん張れません。切り返しの時も膝が内側に入りやすいので、股関節と膝とつま先の方向をまっすぐ向けて切り返しができるかといった、動作技術と怪我予防を意識してトレーニングしています」

「COACH UNITED ACADEMY」動画では、ほかに「選手間のレベル差への対応」「チーム内でのコミュニケーションを高める方法」「モクコーチの実体験紹介」「二重所属選手のマネジメント」など、ここでしか聞けない、現場のリアルな実例が紹介されている。

テーマは女子選手だが、男子選手の指導者にとっても、有益な動画になっている。ぜひ最後まで視聴して、日々の活動の参考にしていただければと思う。

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【講師】小川貴史／
埼玉県吉川市出身。水戸ホーリーホックでスクールコーチとして2002年から指導を開始し、これまでに男女で全てのカテゴリーの指導経験がある。また、Ｊリーグリーグクラブのアカデミーダイレクターの経験もあり、組織作りやフィロソフィー策定にも携わった経験を持つ。2022年には、静岡SSUボニータ（なでしこリーグ2部）の監督としてリーグ優勝、なでしこリーグ1部昇格を果たした。2024年からは、アルビレックス新潟レディース（WEリーグ）のゼネラルマネージャーとして、強化育成部門の統括をしている。日本サッカー協会公認A級ライセンス、JFAスポーツマネージャーの資格を保有しており、SHCスポーツビジネスマスターコースも修了している。

【講師】モクソンジョン／
韓国出身。2013年に日本へ渡り、2014年にジュブリーレ鹿児島で選手をしながら指導を開始。これまでにU-6からトップチームまで、男女を問わず幅広いカテゴリーの指導経験がある。2018年からは鹿児島ユナイテッドFCでスクールコーチ、スクールリーダーとして育成年代の指導や組織運営に携わり、年代に応じた技術・判断・フィジカルを統合した指導を実践。鹿児島地域の育成基盤づくりにも貢献した。2021年からはアルビレックス新潟レディースでU-18／U-15コーチとしてアカデミーの指導に従事。2022年からはトップチームでアシスタントコーチ兼フィジカルコーチとして、WEリーグにおけるフィジカル強化およびコンディション管理を担当している。日本サッカー協会公認B級ライセンス、JFAフィジカルフィットネスBライセンス、JLPT N1を保有。