W杯出場欧州列強 U-12育成事情

2018年11月 6日

足が速い選手が少ない代わりに技術と思考力で勝負! モドリッチらを生み出したクロアチア、小国ならではの育成事情

■ラキティッチは5カ国語 サッカーだけではなく、勉学も重視

良質な選手が育つ土壌として協会の技術面でのアプローチや国民性という部分にヒントがありました。一方でいわゆるオフザピッチにおける指導者のアプローチはどのようなものなのでしょうか。ジュニア年代の育成現場における"教育面"について問うと、こういった答えが返ってきました。

「人間教育が大事であるという事はよく言われています。ただ、経済事情もあり、親が『子どもを選手にしたら儲かるだろう』と考えてサッカーに専念させようとすることもあるんですが、指導の現場では『ちゃんと高校まで行くように』と選手に伝えます。また、勉強面も結構、重視していますね。学術分野でも優秀な人が輩出される国ですから。勉強の科目数も多いですし、子どものランドセルも日本より大きいです。日本で言う小学1年生から英語を、中学生から第二外国語を学びます。経済事情もあり、仕事を求めて国外に出ることも多く、言語学習能力が高く異なる文化へのなじみが早いこともクロアチア人の良いところかもしれません。移籍したチームの共通言語やその土地の習慣になじめることは、サッカーでもストレスなくパフォーマンスを発揮できるということですから。代表選手だとコバチッチは4か国語、ラキティッチは5カ国語喋れますね」

言及された2選手に加え、現在レアルマドリードで活躍するモドリッチ選手含め、クロアチアの著名なサッカー選手は勤勉で献身性があり、非常に適応能力の高さも感じられます。

そういった選手に育つ背景としては上述したような教育文化に加え、子供に対する親のアプローチも影響しているようです。

小国だからこそ、タレントをもれなく発掘できる制度を作って良い選手を生み出している(写真提供:長束恭行)


ジュニア年代のトレーニングや試合などでは日本の現場でも見られるように"親の口出し"は見られるようですが、際立つほどではないそうです。というのも、スポーツ人口が多いクロアチアでは、親世代がサッカーをはじめ何らかの選手だった経験があるからだそう。

「プレーやメンタル面、どんな振る舞いをすればいいか。自分の経験を生かしたアドバイスを子供にしますし、子どものためになるサポートをするという感覚の人が多いです」

そして、サッカーを通じた人間形成についても高い意識を持っている親も多くいるそうです。「クロアチアは麻薬も蔓延しています。なので、子どもたちには犯罪や悪事に手を出さず、スポーツ選手として健全な大人になってほしいという思いを持っている親は多いですね」

その国や地域の社会問題が子どもの成長に負の影響を及ぼす可能性があることは間違いありません。ただ、そういった状況からの"救いの手"としてサッカーが存在するということは、日本にいる私達にとってはなかなか想像できないもの。

特徴的なこのヨーロッパの小国からさらなる名選手が出てくることを、これからも楽しみにしたいところです。

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長束恭行(ながつか・やすゆき)
名古屋生まれ。大学を卒業し銀行に勤務するも、海外サッカー初観戦となるディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて帰国後に退職。2001年にザグレブ移住。大学でクロアチア語を会得し、旧ユーゴ諸国のサッカーを10年間にわたって取材。2011年から4年間は拠点をリトアニアに移して取材範囲を拡大。訳書に「日本人よ!」(著者:イビチャ・オシム、新潮社)、著作に「旅の指さし会話帳 クロアチア」(情報センター出版局) 、「東欧サッカークロニクル」(カンゼン)、共著に「ハリルホジッチ思考」(東邦出版)がある。

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