ジュニア年代の正しいフィジカル・コンディショニング論

2012年10月 1日

【第5回】子どもの才能を潰す「夏場の走り込み」。指導者や親が知っておくべきコンディショニング

サッカーのような激しい動きのスポーツを行う上で、一番心配なのが「ケガ」。場合によっては、サッカーができなくなってしまうことにもなりかねません。疲労回復のための休息が必要なことは知られてきましたが、熱心なあまり長時間の練習を課してしまう指導者や上手くなるために自主練をやり過ぎてしまう選手も、まだまだ多くみられます。連載第5回目の今回は、ご自身も練習のやりすぎでケガを負ったことがあるという谷真一郎コーチに、適度なトレーニングの必要性について伺いました。(取材・文/鈴木智之)

■谷コーチも経験した「練習のやり過ぎ」による骨折

前回のコラムで、正しい身体の使い方、動かし方について説明をしました。正しい動きを習得することは、ケガのリスクを減らすことにもつながります。サッカーでは膝や足首の障害が多いですが、例えば、最近、若年層にも多く見られる、中足骨の骨折。とくに、足の小指の延長線上にある、第五中足骨を骨折する選手が後を絶ちません。

第五中足骨はターンをするときなど、急激に方向を変えるときに負担のかかる部位です。足をひねるようなターンをすると、足の外側に負担がかかって、第五中足骨に過度な負担がかかってしまいます。人工芝のグラウンドでグリップ力の強いスパイクを履くことによって、足の外側に負担がかかる場合もありますが、多くのケースが動きやひねりの動作、具体的には足の着き方を間違って身につけてしまい、その結果、第五中足骨にかなりの負荷がかかってしまうというわけです。

パワー効率を考えて、大きな地面反力を得ようとした場合、ポイントになるのが『ひねらずに足を踏み換える動作』です。前回のコラムで紹介したように、適切な歩幅でパワーポジションをとり、ひざをロックして、次の動作へと素早く進みます。これはステップやラダーでのトレーニングで身につく動きなので、ケガ予防の観点からもぜひ習得して頂きたいと思います。

かくいう私も、現役時に第四中足骨を骨折したことがありました。当時は左ウィングとしてプレーしていたのですが、ドリブルからクロスボールを上げる練習を「やり過ぎて」、ある日、折れてしまいました。これは、正しい身体の使い方を知らずに、何度も繰り返したオーバーワークが原因で起きたケガです。そうならない為にも、動きの習得に最も適したジュニア期に正しい動きを身につけておくことが重要なのです。

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■非科学的なトレーニングのせいでサッカーを諦めていく選手たち

いまでこそ、トレーニングの方法や疲労回復の原理原則を知っていますが、選手時代はただがむしゃらに、量をこなせばサッカー選手としてレベルアップできると信じていました。練習の甲斐あって、日本代表に選ばれるまでになったのですから、その考えもすべてが間違っているとは言えません。しかし、現在は休養の大切さや、ケガを予防する身体の使い方を知っています。ですので、選手、指導者の方たちにも『蹴り込み』『走り込み』など、過剰な練習量を消化するようなトレーニングは、ケガのリスクと紙一重にあることを知って欲しいと思います。

例えば、様々な現場でよくあるのが『夏場の走り込み』です。夏は強化期に当たるということで、合宿に行って何十キロも走る練習をするチームもあるようです。コンディショニング面から見ると、夏場の走り込みほど、危険なトレーニングはありません。夏は35度を超え、身の危険を感じるほどの暑さです。

私が高校生だった頃は、科学的なトレーニング理論は知られていなかったので、夏場は「走り込む」ことで精神と身体を鍛えるという風潮がありました。きつい練習に耐えて精神力を強くするという考え方です。しかし、現在はトレーニングやコンディショニングに関する、正しい情報も増えてきています。夏は暑くて消耗度も高く、食欲も減退します。そのことから考えると、トレーニングの『量』はそれほど多くはできません。量をこなすことができないので、短時間で質の高いトレーニングをすることが求められます。それこそが、指導者が追求すべき部分です。夏場の走り込みは、これの真逆をいく考え方です。非科学的な指導を強いられ、熱中症になったり、コンディションを落としてしまったり、ケガをしてしまったりする選手がたくさんいます。

■長時間の練習は「やったつもり」になってしまう

そのような環境に勝ち残った選手が試合に出られる、あるいはプロになれるという考え方も一理あります。しかし、量ばかりを重視したトレーニングをやらされることによって、選手としての可能性を失っているケースが多いのも事実です。競技特性やコンディショニングの本質を理解しないトレーニング(一定の速度で追い込んで走る長距離走や夏場の走り込み等)の結果、コンディションを落とし、それがケガにつながってしまい、志半ばでサッカーを諦めざるをえない選手もいます。

多くの場合、長時間の練習をしたり、長距離を走ったりすることで、トレーニングを「やったつもり」になってしまうことがあります。いわゆる、練習をした気になって満足してしまうのです。しかし、そのような練習は「1試合の中で可能な限り質の高いプレーをする」というサッカー競技の本質から外れています。また、コンディショニングの観点からも、トレーニングの負荷に対する充分な回復期間を持たなければコンディションは低下していきます。それを、我々指導者は正しく理解する必要があると思います。

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谷真一郎(たにしんいちろう)//

愛知県立西春高校から筑波大学に進学し、蹴球部に在籍。在学中に日本代表へ招集される。同大学卒業後は柏レイソル(日立製作所本社サッカー部)へ入団し、1995年までプレー。 

引退後は柏レイソルの下部組織で指導を行いながら、筑波大学大学院にてコーチ学を専攻する。その後、フィジカルコーチとして、柏レイソル、ベガルタ仙台、横浜FCに所属し、2010年よりヴァンフォーレ甲府のフィジカルコーチを務める。 

『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』(2012年9月現在)


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