あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]

2021年7月30日

でこぼこピッチだとぐらついて転びやすい子どもたちのボディコントロールを強化する練習はある?

昔の子に比べると技術がありスマートなプレーをする子が多いが、平たんでないでこぼこピッチだと一気にプレーの質が落ちる最近の子どもたち。バランスを崩して転びやすくなる子も多くイレギュラーバウンドへの対応力がない。

練習環境が良すぎる日本の環境が原因? 遊びを取り入れながら、足場の悪い環境でのトレーニングもしたほうがいい? というご相談をいただきました。皆さんのチームではどうですか?

今回もジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、海外の育成環境の事例やJクラブトレーナーの言葉をもとにアドバイスを送ります。
(取材・文 島沢優子)

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(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)

 

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<お父さんコーチからのご質問>

こんにちは。私は街クラブで教えている保護者コーチです。指導年代はU-10~U-12です。

ご相談したいのは、足場の良くない場所での練習についてです。

最近の子どもたちは、昔に比べて粗削りな選手が少なく、みんなスマートで上手な動きをしますが、それは整備されたピッチの上でのことであり、グラウンドコンディションが良くないところでのプレーだと一気に質が下がります。

バランスを崩して転ぶことも増えます。

静止した状態のリフティング練習と一緒で、きれいで平らなグラウンドでの練習だけではボールがちょっとずれたときの調整力など、試合で咄嗟の時に使う技術がなかなか身につかない気がしてます。

もちろん今サッカーを楽しんで中学以降も続けてくれることが一番なのですが、今どきの子は細身で体幹が弱く、相手に当たられるとグラつく子も多いので、サッカーの時間の中で身体を強くする要素も入れられたらと思っているのです。

海外ではデコボコのピッチが当たり前で、イレギュラーバウンドしたボールに食らいつくのでボディコントロールも上手になると聞くのですが、やはり練習環境が良すぎることの弊害などもあるものでしょうか。

砂浜など足場が不安定な環境で、遊びを取り入れたトレーニングなども考えているのですが、池上さんはどう思われますか。

 

 

<池上さんのアドバイス>

今の子どもたちが育つ環境を考えると、野山を駆け巡るようなものではありません。サッカーコートは土か人工芝の整備されたところのみですね。彼らの遊び方も同様です。自然の中で走り回るとかではありません。

私たち世代の子ども時代は鬼ごっこが遊びの中心でしたが、今はテレビゲームなど「静的な遊び」が多いようです。しかも、地方と都市部の違いはもうあまりなく、遊び方や環境は昔とは少し違います。

とはいえ現実は受け入れるしかありません。

 

■神経系が発達する幼少期は生活の中でいろんな動きができるのが理想

神経系がどんどん発達する幼少期は、山を登ったり、坂を下ったり、飛んだり跳ねたりと、生活の中でいろんな動きができるのが理想です。サッカーのトレーニングのなかに「コーディネーション」と呼ばれる体をなめらかに動かすための練習を取り入れてもいいでしょう。

そのあたりは、検索すれば動画サービスでもいっぱい出てきます。そういうものを取り入れてはどうでしょうか。イングランドは、育成年代のトレーニングにクロスカントリーを取り入れたりしているようです。地面に凹凸があるので、足首を鍛えることにはなりますね。

ただし、大人がそういうところばかりに気をとられ、ストイックになりすぎてしまうのもどうかと思います。もちろん砂場の練習が悪いわけではないけれど、子どもたちにはサッカーをする時間は限られています。考え方は間違ってはいないと思いますが、そのことにあまり執着する必要はないでしょう。

 

■「ズレが生じる」ようなリフティング環境を用意して、対応力を養う

南米は主に芝のグラウンドを使います。地面に凸凹があっても芝生が生えていることでクッションになっているので、足がかかったりするなどイレギュラーなことは起こりません。以前、ジーコが「人工芝なんてグラウンドではない」と話していると聞いたことがあります。

その一方で、オランダは「小学生の間は人工芝でやりなさい」とオランダサッカー協会が推奨しています。小学生までは良い環境で、きちんとした技術を身につけることが必要だという考えです。

ご相談者様がおっしゃるように、子どもたちがバランスを崩すようならば、まずはコーディネーションのトレーニングを取り入れてみてください。加えて、静止した状態で行うリフティングは試合で使わない技術なので、例えば走りながらやったり、二人で前に進みながらパス交換しながらリフティングをするような練習をしましょう。

ひとりでやるリフティングは、ほぼ予想した通りのところにボールが落ちてきますが、二人で行うとズレが生まれます。とっさに動く体の対応力も養えるでしょう。

 

■どこに跳ねるかわからないボールで瞬発力を向上させる

もうひとつの方法は、リアクションボールを使う練習です。リアクションボールは「凸凹がついたボール」です。サカイクを運営するE-3のショップで販売している「テクダマ」も、サッカー専用に開発されたリアクションボールの一つです。リアクションボールはどこに跳ねるかわかりません。そのボールをワンバウンドさせてみたり、投げてキャッチするトレーニングを行います。ボールがどこにいくかわからないので、瞬発力の向上に役立ちます。

ダイレクトでキャッチするのではなくて、まずは「ワンバウンドで取ってね」と言ってワンバウンドしたボールをとってもらいます。そうすると、子どもはだんだん構え始めます。

「腰を低くしろ」とか「構えろ」などとあらかじめ大人が教えてはいけません。本人たちがそれをやり始めたところで、「パスが来る時にそういう構えだと、多少ズレても受けられるよね」と説明すればいいだけのことです。

 

■まずは遊びの雰囲気で行うことが大事。指導しようと真剣になりすぎないこと

まずは「ワンバウンドでいくよ」という話をするだけでいいのです。最初はとれなくても「ワンバンで取ってねっていったよ」などと、和やかに遊びの雰囲気で行ってください。日本のコーチは練習を「できるまでやれ」みたいに真剣すぎるところがあります。そうならずに、楽しくやらせてください。

上述したように、「ワンバウンドでとって」と言いながらやっていくと、子どもは構えるようになりますが、それでも取れないこともあります。

「構えてても取れないことがあるよね。でも、構えないと、もっと取れないよね。試合の中でも、いつもそんなことを考えてやろうね」と伝えてください。

 

■子どもの運動能力が低下しているのは確かだが、工夫次第で足りない部分を補える

そもそも、日本と海外ではグラウンド環境に差があります。海外は天然芝が多いので、雨上がりはピッチがスリッピーになります。そうすると、練習や試合でワンバウンドのボールが予測よりも伸びてきます。

南米や欧州の子どもたちは普段から当たり前のようにやっているのですが、日本の子どもは多くが土のグラウンドなのでそんな経験ができません。今日は芝が荒れているからどうするか? といったことを学べないわけです。それに、日本では雨が降ると使えない土のグラウンドもありますね。

文部科学省からも、子どもの運動能力が低下しているデータ等が伝わってきます。冒頭でお話ししたように、子どもたちの育つ環境が変化しているからです。ただ、そのあたりの足らない部分を取り戻すことは決して難しくはありません。

大人が考え過ぎず、コーディネーションの回数を増やすとか、複合的な動きをしてからボールコントロールをするといった工夫をしてあげてください。

 

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