サッカー豆知識

2019年9月 4日

子どもたちが楽しいと思えないトレーニングは何時間やっても意味がない! イタリア街クラブの育成大家が語る少年サッカー指導の極意

■子どもたちにとって苦痛でしかないことは...

――いっぽう、先ほど話にあった「最も大切なこと」とは逆に、指導者として「最も難しいこと」とは一体何なのでしょうか。
アンジェロ:それはやはり、サッカーをやめるよう伝えなければならないときですね。もちろん一クラブである以上は利益を確保するためにできるだけ多くの子ども達を集めようとするのがサッカースクールの性だとしても、例えば親の意向で、つまり本人の意に反してサッカーをやらされている子がいるとすれば、子どもにとってこれほどの苦痛はないのですから、その親に対して私はダイレクトに思うところを伝えます。

当然、その体質などからまったくサッカーに向いていない子どもも中にはいるのですから、それでも本人がやりたいというのならもちろん徹底して支えますが、そうではない場合には別のスポーツを勧めることもある。例えばサッカーから転身して柔道やフェンシング、テニスなどで成功した子ども達も過去に少なくはありませんから。

もちろん、必ずしもスポーツである必要はありません。例えば美術だったり音楽であったり。その子にとって何が一番幸せか。これを真剣に考えることこそが大切だと思うのです。

 

■可能な限り多くサッカーを愛する子どもを育てていく

――そして最後に、再び話をイタリアのサッカー界全体に戻してお聞きしたいのですが、監督や私たちが思うように、イタリアのサッカーは代表のレベルで遠くはない将来に復活を遂げることができるのか。それとも、国内メディアの多くが言うように今後も長く低迷を続けるのか。
アンジェロ:(W杯制覇は)1982年の次が2006年でしたからね。その24年周期にもしも一定の根拠があるとすれば、次は2030年大会ということになるのですが、もちろん将来がどうなるかを今にして予想することはできません。勝つか負けるかは常に50対50ですから、長く続けていればいつかまた勝てるときが来るかもしれない。そんなふうに思うことしか私にはできません。そもそも2030年に私がまだ生きていられるかどうか、かなり難しいと言わなければなりませんからね(笑)。

それに、サッカーにおける復活は何もワールドカップを制すことに限らないと言えるはずですから、サッカー界の末端にいる一指導者としては、とにかくこれからも長くボールを蹴り続けていくことで可能なかぎり多くサッカーを愛する子ども達を育てていきたいと思いますし、そのことだけに残りの人生すべてを捧げたいと思っています。

セリエAデビューを目の前にしながら怪我に泣いた経験と、その時の辛さを忘れないからこそ、これからも私は「最も大切なこと」を子ども達に伝え続けていきたいと思っています。

もちろん、いつの日か自分の教え子があの黄金の賜杯を掲げる瞬間を目にしたいと夢に想いながら。

 

 


アンジェロ・カステッラーニ(Angelo Castellani)監督
1956年1月20日生まれ。モンテヴェッキオ(カッリャリ/サルデーニャ州)出身。友達と路地でサッカーしているところをスカウトに見出され、12歳でジェノアへ入団。同クラブ下部組織で18歳までプレーした。右のウイング。当時(プリマヴェーラ)のチームメイトには、80年代のローマで活躍したロベルト・プルッツォ、ルイジ・シモーニ(元ユベントス、ジェノア選手/元インテル監督)らがいる。将来の代表候補と期待されたが怪我により25歳で現役続行を断念。フィレンツェの地方紙「ラ・ナツィオーネ」に入社し印刷業務に従事し夜間に仕事、昼間に下部リーグでプレーしながら夕方に子ども達を指導する日々を28年間続け、今日までの育成指導者歴は38年に及ぶ。指導した子どもの数は延べ1万人超。2000年から現職(町クラブA.S. Olimpiaのサッカースクール最高責任者)。国内有数のクラブからの誘いを断り、町クラブでの指導に生涯を捧げると決めたアンジェロ監督は、「天使の金曜日」で広く知られる育成のスペシャリストである。
(取材日=2017年11月23日/27日 @フィレンツェ)

前へ 1  2  3

関連記事

関連記事一覧へ