健康と食育

2013年12月27日

日本代表トレーナーが教える 育成年代のコンディショニング

 12月8日、「育成年代のコンディショニング ~けがの予防とウォームアップストレッチ~」が日本サッカーミュージアムで行われました。日本サッカーミュージアム10周年を記念したトークショー企画の第二弾となる今回は日本代表を支える早川直樹コンディショニングコーチと前田弘アスレティックトレーナーが登場し、参加者が身体を動かす実技を交えながら講演を行いました。今回は、その模様の一部をお届けします。
 
早川直樹コンディショニングコーチ
 

■日本代表を支えるトレーナーの存在

「日本代表では、試合に勝つためにありとあらゆる方策を練るのですが、そのすべての方法をコンディショニングと考えています。試合に向けて調整していくのが私たちの仕事」
 
 冒頭、早川コーチはコンディショニングコーチの仕事をこんな風に説明してくれました。
 
 1999年から日本代表チーフアスレチックコーチを務め、2007年からはコンディショニングコーチとしてチームの全体的なコンディショニングを統括する立場に。早川コーチは、並外れた体力や走力、持久力が求められる日本代表の選手たちの身体、精神、環境などのあらゆる面でのサポートをしています。
 
「トレーニングの内容やケガの予防、ケガからの復帰、復帰後のリハビリ……。生活、食事面に至るまで日本代表が勝利に向かって試合に専念できるようにすべてのスタッフと協力し合っていくのがコンディショニングコーチの役割です」
 
 一方、アスレティックトレーナーを務める前田トレーナーは「選手の健康管理を主に傷害予防、日常生活も指導する」のがアスレティックトレーナーの仕事だと言います。いまや日本代表に欠かせないコンディショニング、アスレティックトレーナーの存在。お二人は育成年代のコンディショニングについて、何を語るのでしょう。
 
 

■サッカーは生涯を通して楽しめるスポーツ

 次に早川コーチが話したのは「サッカーの魅力」についてでした。
 
「ボール一個あれば、道でも庭先でもどこでもできる。小学生や幼稚園に通っている子どもでも、二人以上そろえばゲームが始められる。とてもシンプルなスポーツであることがサッカーの魅力です」
 
 さらに早川コーチは「サッカーは生涯スポーツでもある」と続けます。
「60歳になっても、70歳になっても、もちろん男性だけでなく女性も、日本代表のようなトップレベルの選手たちだけでなく、一生続けられるスポーツです」
 
日本サッカー協会ではこうした環境をさらに広げるために、様々な働きかけをしているといいます。
 
「生涯スポーツとして楽しむためにも、大切なのが、育成年代における適切なトレーニングです」
 早川コーチは、サッカーが一番楽しくなる時期である小学生年代や中学、高校などの育成年代の過ごし方が、それから先のサッカー人生を大きく左右すると言います。
 
「特に大切なのが、技術、体力ともに年齢にあったトレーニングをおこなうことです」
 サッカーはトップ選手であれば、1試合に12㎞を走る体力を必要とする競技です。体力をつけることもサッカーのトレーニングですが、ただ走ればいいわけではありません。早川さんは「子どもたちは大人がやっているトレーニングと同じものをやればいいわけではありません」と注意を喚起します。
「育成年代ではトレーニングと同じくらい生活習慣が大切」と、早川コーチだけでなく、前田トレーナーも繰り返します。
 
前田弘アスレティックトレーナー
 
 

■ケガとの付き合い方

 また、トレーニングの基本としてケガとの付き合い方も重要です。
「トレーニングは100の力を101、110にしていくために行うものです」
 
そのためには100%の力でトレーニングすることが必要となります。早川コーチは「80%の力で練習を積んでも101にはならない」と言います。
 
 ケガをした(痛みのある)状態で騙し騙し練習をしていても、レベルアップできないばかりか、またケガをしてしまう可能性もあります。痛みなくプレーできる時間を確保するためには、思い切って休むのも大切なことです。
このあと、前田トレーナーからは育成年代の子供達に多く発症している、腰椎分離症やオスグッド・シュラッター病についての対処方法と予防などのお話がありました。
 
続いて行われた実技の時間では、サッカーのパフォーマンスアップに重要な安定性、可動性、柔軟性やバランスを鍛えるトレーニングが紹介されました。会場に来ていた子どもたちが取り組んだのは、下記の4種目です。
 
・フォワードランジ&フォアアーム・トゥ・インステップ
・ランジストレッチ
・インバーテッド・ハムストリングス
・ラテラルランジ
 
 育成年代は、身体の中心となるコアの力、安定性、可動性(柔軟性)、バランスやコーディネーションなど土台作りの時期です。そしてそれらを土台にして動きの質を高める基礎体力(スピードや持久力など)のトレーニングを出来る限りサッカーの中に取り入れてトレーニングしていくことが望ましいと考えています。
 
 

■W杯のコンディショニングは?

 講演に先駆けて登壇したサッカーミュージアムの小倉純二館長が、スピーチの冒頭で早川さん、前田さんにタイムリーな話題を投げかけていました。
 
「いよいよブラジルW杯の組み合わせが決まりました。これから二人はブラジルでのコンディショニングを考え始めているんじゃないでしょうか」
 日本代表の試合会場はグループリーグの3戦とも2000~3000kmほど離れています。移動距離は選手のコンディションに大きな影響を与えるとあって、コンディショニングを担当するトレーナーとしてはまさに悩み所。館長の問いかけに早川コーチは「これから一生懸命考えなければ」と前置きをしたあとブラジル対策について少しだけ教えてくれました。
 
「ブラジルの気候はコンフェデレーションズカップで経験できました。移動距離や気温差、湿度などは十分考慮して時間をかけて対策を練りたいと思います。W杯では当たり前のことを徹底的にやり切ることが大切になると思います。選手たちが120%の力を出せるようにコンディショニングをしていきたいと思います」
 
 日本代表の選手はほぼ半分が欧州でのシーズンを終えてからW杯に駆けつけることになります。早川さんは「日本の試合会場となるところは暑く湿度が高くなることも予想され、涼しい欧州から合流してくる選手は一度休んでW杯に向かいます。その期間をどういう風に過ごすのか、どう調整していくのかをこれから監督を含めた全スタッフで話し合います」と、間近に迫ったW杯への意気込みを語りました。
 
 
<<プロフィール>>
■早川 直樹//ハヤカワ・ナオキ
サッカー日本代表コンディショニングコーチ
(日本サッカー協会 ナショナルコーチングスタッフ)
1963年3月9日生(48歳)東京都出身 
・1981年 東京都立南多摩高等学校 卒業
・1984年 メディカルトレーナー専門学校 卒業
・1989年 東京衛生学園専門学校 卒業
【活動歴】
・1989~1991年 日本女子代表チームトレーナー
・1991~1992年 東日本古河サッカークラブトレーナー/日本鋼管サッカー部トレーナー
・1993~1995年 ガンバ大阪トレーナー
・1996~1998年 ジェフユナイテッド市原アスレティックトレーナー
・1999~2010年 日本代表チームチーフアスレティックトレーナー
【有資格】
・1998年 財団法人日本体育協会公認アスレティックトレーナー
・2004年 JFAサッカーB級コーチライセンス取得
  
■前田 弘//マエダ・ヒロシ
サッカー日本代表アスレティックトレーナー
(日本サッカー協会チーフトレーナー)
1965年11月5日生(46歳)東京都出身
・1984年   日体荏原高等学校 卒業
・1986年   メディカルトレーナー専門学校 卒業
・1991年  東京医療福祉専門学校 卒業
【活動歴】
・1991~1992年 東日本古河サッカークラブトレーナー/日本鋼管サッカー部トレーナー
・1993~1994年 プリマハムくの一女子サッカー部アスレティックトレーナー
・1995~1996年 ガンバ大阪アスレティックトレーナー
・1996~2007年 ジェフユナイテッド千葉アスレティックトレーナー
・2007年~        日本代表チームアスレティックトレーナー
【有資格】
・1990年 按摩マッサージ指圧師免許
・1991年 鍼灸師免許
・1998年 財団法人日本体育協会公認アスレティックトレーナー
 
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