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國學院久我山の文武両道メソッドは「量ではなく質を追求する」

公開:2014年1月 6日 更新:2020年9月 4日

キーワード:國學院久我山文武両道高校サッカー

 「美しく勝て」をモットーとしたパスサッカーで開催中の第92回全国高校サッカー選手権大会では優勝候補の一角にも推された國學院久我山でしたが、注目を集めた12月30日の開幕戦で熊本国府に1-2で敗れ、惜しくも初戦敗退となりました。しかし、國學院久我山の本当の価値はサッカーや選手権のみの結果では測れません。周知の通り、同校は「文武両道」を高いレベルで実践している模範的高校サッカー部です。

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FW松村遼選手
 例えば、東京都予選4試合で8得点とチーム総得点(11得点)の7割以上を一人で叩き出したFW松村遼選手は、國學院久我山中学からの一貫生で大学では食品関連の研究をするため難関国立大学の受験を予定しています。理系の進学クラスに在籍するため毎日1時間ほど練習参加が遅れ、部活終了後は塾に直行して21時まで自習室での勉強を続けてきた松村選手は、全国トップレベルの高校サッカー部で主軸として活躍しながらもあくまで学業(一般受験)での大学進学を目指してきました。

■サッカーをやりすぎてもサッカーは上手くならない

 李済華(リ・ジェファ)監督は東京都予選決勝でハットトリックの活躍を見せた松村選手についてこう話します。
「うちにはサッカーで入ってくる子もいますが、松村は俗に言う『久我中』、一貫の久我山中からサッカー部に入ってきた子なので今も受験のためにしっかり勉強をやっています。うちは周りから『文武両道』と言って頂いていますが、勉強をやっている彼のような選手でもサッカーでこのくらいのレベルになれるんだと。『勉強かサッカーか』と迷っている子どもたちにとって、松村はそのままの見本です。彼を見てもらえれば、『悩む必要ないよ、両方できるよ』と言えますから、すごくいいことだと思います」
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MF渡辺夏彦選手
 今大会の注目選手として脚光を浴びたU-18日本代表候補のMF渡辺夏彦選手もサッカーの実力的には「サッカー推薦」、「特待生」での大学進学が十分可能でしたが、「自分の中でずっとテーマとしてきた『文武両道』を大学でも実践したい」という強い意志の下、AO入試で超難関私立大学への進学を決めています。しかし、渡辺選手は周囲から「久我山は文武両道を実践していてすごい」という評価を受けることについてこう話します。
「普段の勉強をしっかりやって、定期テストで点数と成績を取るというのは、部活のあるなしは全然関係ないと思います。例えば、テスト前は部活なしのところもありますが、そういう人たちが帰ってダラダラと勉強するより、僕は部活をやって、スイッチを切り替えて勉強に集中するという方が効率良くできると考えています」
 しかし、サッカー部がテスト一週間前に練習を許可されるのはインターハイや選手権といった公式戦を控えた時のみ。朝練は学校と李監督の方針から行なったことすらなく、学校が完全下校の時間(18時半)を徹底管理しているため國學院久我山の練習時間は1日平均1時間半で2時間を超えることはまずありません。オフも週1日以上しっかりと確保されており、李監督の持論は「練習の質を高めるためには朝練も2時間以上の練習量も必要ないし、逆にサッカーをやり過ぎてもサッカーは上手くならない」というものです。
また、國學院久我山にもスポーツ推薦の制度は存在しますが(サッカー部は一桁の推薦枠)、スポーツ推薦にしては「かなり高い」と言える評定平均が求められ、どれほどサッカーが上手くとも評定平均以上の成績がなければ受験できません。スポーツ推薦で入学する学生は5組に集められますが、ここでも私たちが一般的にイメージする「スポーツクラス」とは大違いで毎週小テストが課され、中間・期末テストのレベルも高く勉強の量と質の双方が求められます。
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國學院久我山高校サッカー部 李済華(リ・ジェファ)監督

■サッカーも勉強も量ではなく「質」を追求する

 李監督は文武両道の追求について「高校に通っているわけですから、勉強とクラブ活動の両方を一生懸命やるのは当たり前のこと」とした上で、こう続けます。
「結局、文武両道で頑張るのは『人生をよく生きる』という目標のためです。勉強をすること自体はとても良いことで、私の考える勉強とは学校の成績を上げるためのものに限らず、物事を知るということを含みます」
 こうした監督の考えは久我山の選手たちに見事に浸透しており、例えば今年のエースで大学進学ではなく海外を含めたプロ志望のFW富樫佑太選手は、
「僕は基本あまり勉強をしたくない人間で、23時前には寝る生活を心がけていました」としながら、独自の勉強法についてこう説明します。
「完全下校の時間が早く、20時までには帰宅できるのですが、帰ってからの時間はそう多くないので、電車の移動時間を利用して勉強していました。中学の時も電車で1時間かけて移動していましたが、その時の電車の1時間と、高校に入って使う電車の1時間が全然違うものになっています。ちょっとした合間の時間や余った時間をどう使えるかが大事だと思いますし、そこは高校に来て格段に上手くなりました」
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FW富樫佑太選手
 また、受験勉強のない富樫選手は高校3年生になって通学電車内で読書に励むようになっています。様々なジャンルの本を読みあさり、サッカーノートに読書感想文まで記しているという富樫選手はまさに李監督が定義する「物事を知るための勉強」を現在進行形で実践しています。
 このように國學院久我山の文武両道を見ていくと、文と武が切り離されたものではなく、「文が武を、武が文を助け、互いを高め合っている」ことがよくわかります。例年、学校での成績も優秀なサッカー部の選手たちは指定校推薦で関東の難関私立大学に進学することが多いのですが、今年のチームは例年とは異なり主力選手ほど一般受験での大学進学を目指しています。今大会の開幕戦のピッチに立った3年生では、松村選手を含めて3名が1月のセンター試験、2月からの一般入試を控えながら12月30日までトップレベルの高校サッカーに取り組みました。彼らにしてみれば口で言うほど「簡単なことではない」のでしょうが、これを可能にしたのはサッカーにおいても勉強においても「量ではなく質を追求する」國學院久我山の文武両道メソッドでした。誰もが久我山レベルで文武両道を実践できるわけではないでしょうが、本当に知って欲しいことは彼らのレベルの高さや凄さではなく、自分に合ったレベルでサッカーと勉強の両方を頑張ること、そのための独自のメソッドを確立することの大切さなのです。
小澤一郎//
(おざわ・いちろう)
1977年、京都府生まれ。早稲田大学卒。サッカージャーナリスト。スペイン在住歴5年。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、「育成」を主軸にしながらも指導者目線の戦術論やインタビューを得意とする。現在はサッカークリニック、サッカー批評、サッカーダイジェストなど複数の媒体で執筆の傍ら、サッカー関連のイベントやセミナー、ラジオ、テレビなどでトークもこなす。著書に『サッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『日本はバルサを超えられるか(共著)』(河出書房新社)、『サッカー選手の正しい売り方』(カンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『レアルマドリード モウリーニョの戦術分析』(スタジオタッククリエイティブ)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、『モウリーニョvsグアルディオラ』(ベースボールマガジン社)。
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