「サッカーは考えながら走るものだ」元日本代表監督、イビチャ・オシムさんはこう言いました。サッカーはボールを持っていても、いなくても「走る」が全体の多くの割合を占めるスポーツです。
どうしたら速く走れるようになるか? これは、駆けっこや運動会、マラソン大会などで足の速さを競う機会の多い子どもたちにとっても大きなテーマです。
今回はサッカーに必要な中・長距離に焦点を当てて「マラソンは上半身が9割」というタイトルの書籍を刊行したばかりのランニングコーチ、細野史晃さんに「誰でも足が速くなる方法」についてお聞きしました。
足が速くなるだけでなく、どうしたらサッカーの試合でそれを活かせるのか? も重要! 今回はお父さん、お母さんと一緒にフォームをチェックする方法や、遊びながら正しい姿勢、ランニングフォームを身につける練習法も紹介します。少し寒い季節ですが、まずは外に出て親子で一緒に身体を動かしてみましょう。
■名選手は上半身をうまく使って走っている!?
「下半身を素早く動かすのが速く走るコツだと思っている人が多いのですが、実際には脚“だけ”を動かしても速く走ることはできません」
いきなりですが、本のタイトル通りびっくりするようお話。細野さんは「より重い上半身を先に移動させること」こそが、物理学や解剖学の視点から見ても自然で効率の良い動きだというのです。
「サッカーの名選手、メッシやクリスチアーノ・ロナウドといった外国人選手はもちろんですが、本田圭佑選手(ACミラン)や香川真司選手(マンチェスター・ユナイテッド)、岡崎慎司選手(マインツ)、長友佑都選手(インテル)のプレーを見ても上半身に重心を置く軽やかな動きをしていますよね。スピードのある選手はピッチを“跳ねる”ように動いていると言いますが、ああいう弾むような動きは、下半身で踏ん張っている人には絶対にできません」
細野さんは「重い上半身を先に動かせば、脚は意識しなくてもついてくる。これだけで劇的に動きの質が変わる」と言います。「正しい姿勢で上半身の動きを最大限に活かす」動きこそが、速く走る最大のコツなのです。
■体重の6割を占める上半身を効率よく使う
写真A、BとC、Dを見比べてみてください。左はいずれもNGの写真です。お尻の下に重心が来ている、いわゆる猫背。ここからすぐに前に進むのは素人目にも難しそうですよね。一方右に並んだBとDは重心が上半身にあり、いつでもスタートが切れそうな姿勢です。美しい姿勢は「胸を張れ」と言いますが、これもやはり理に適ったことなんですね。
「人間の体重の6割は上半身が占めています。その重りをうまく使って前に進むことができれば速く走れる。この感覚をつかむために、前に倒れ込むようなスタートの仕方を練習してみてください。前から引っ張られるようなイメージです」
イラストのように上半身を重りとして走ると下半身より楽に身体を前に移動にすることができます。
■子どもは本質を理解している
「子どもたちに教えるときにはひとつ重要なポイントがあります」
細野さんは「子どもはもともと合理的な走りをしている」というのです。
「子どもたちが走る様子を観察してみてください。みんな頭の重さを使って走っていませんか? 多少ドタバタしていますが、頭が前に出て、背骨を使って走っている。これは本能的に正しい走りを理解しているからできる動きです」
重心を安定させるためには頭が落ちたままではいけませんが(頭を上げると写真Fのような姿勢になる)、本質は子どもの走りの方が正しいというのです。
子どもたちと一緒に走ってみて、どんな身体の使い方をしているかをチェック! フォームによってアドバイスも変わってきます。
「学校で習う“正しい走り方”や速く走るための方法で矯正され、下半身に重心がある走りになってしまうのです」
こうした“正しい走り”とされている方法論も一時的に記録を伸ばすことには役立つそうです。しかし、細野さんは「本質的な動きとは逆の動きなので、一定以上の成果は見込めない」と言います。関節などに負荷がかかりケガにつながる危険性が高まることもこうした方法論をオススメしない理由だそうです。
今回は「重心」と「姿勢」をキーワードに走り方を見直してみました。いままで意識していなかった点も多くあって、驚いた人も多いのではないでしょうか?
上半身を意識する走りはサッカーにも多くのメリットをもたらします。次回は自身もサッカー経験者で、女子サッカークラブの走りの指導などもされている細野さんに、「走り」と「サッカー」をさらに関連づけたお話と具体的な練習方法についてお聞きしたいと思います。
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細野史晃(ほその・ふみあき)//
1985年、京都生まれ、東京育ち。都立小石川高校、埼玉大学を卒業後、株式会社リクルートHRマーケティングを経てSun Light Historyを立ち上げる。中学から陸上競技を始め、高校で三段跳を始める。身長160㎝ながら大学2年時に14m74というインターハイ入賞レベルの記録を指導者なしで記録。競技歴15年、指導経験11年の経験をもとに『楽RUNメソッド』を開発し、自身のランニング・クラブを中心に、社会人アスリート、学生アスリートと、一般からトップアスリートまで幅広く指導。ランニングの楽しさを広める活動を精力的におこなっている。2014年2月、『マラソンは上半身が9割』(東邦出版)を出版。
〈指導実績〉
・中学校、高等学校陸上競技部への指導多数
・地域スポーツクラブへの指導多数
・一般社団法人アスリートソサエティ「相馬陸上教室」講師
・障がい者アスリート応援イベント「Sports Of heart」かけっこ教室
・日本選手権、日本インカレ、関東インカレ出場選手多数輩出
【Sun Light Running Club】
ホームページ:http://sunlightrc.com/
【書籍紹介】
現役のランニングコーチが選手、指導者として習得した技術、知識、経験をもとに、科学的に分析したランニング技術書。走りにおいて有効な動きをするためのキーワードを「姿勢」と重心、そして「上半身」としたうえで、物理学や機能解剖学を通して詳細に説明。正しい動きで速く走れるようになる、読めば“目からウロコ”の一冊。
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取材・文/大塚一樹 写真/小林学・新井賢一(ダノンネーションズカップ2013より) イラスト/アカハナドラゴン 取材協力/東邦出版