考える力

2021年5月10日

「トレセン歴なし」がほとんどなのに約30人がJリーガーに! 全国常連の強豪サッカー部監督に聞く「個とチームの磨き方」

全国選手権出場18回、インターハイ出場13回。今や全国屈指のサッカー強豪校として知られる島根県の立正大学淞南高校です。

在籍する選手は中学時代にトレセン歴のような輝かしい経歴がない選手がほとんどですが、個性を磨きあげ、セレッソ大阪のDF松田陸選手、松田力選手を筆頭にこれまで28人ものJリーガーを輩出しています。

チームを率いる南健司監督の独自の哲学には高校サッカーだけでなく、サカイクの読者であるジュニア年代の親御さんや指導者にも役立つヒントがたくさんあります。

今回は現在発売中の南監督の著書「常に自分に問え! チームの為に何が出来るか 立正大淞南高校の個とチームの磨き方」から一部を抜粋し、紹介していきます。
(構成・文:森田将義)

 


立正大淞南高校サッカー部(C)森田将義

 

後編:「無難にこなせる」も立派な長所! トレセン歴がない選手を磨いて約30人のプロを生んだ強豪サッカー部監督が語る長所の定義 >>

 

■ハーフタイムは、チームメイトへの指摘は禁止

ハーフタイムには必ず選手同士で話し合う時間を設けていますが、話す内容には注意するようにしています。育成年代では、自分にとって都合の良い話ばかりをして、チームがネガティブな雰囲気になる話し合いが珍しくありません。

例えば、FWがチームメイトに対し、「俺がパスコースを制限しているんだから、もっとインターセプトを狙ってよ」と不満混じりに要求するケースです。こうした場合、淞南では「俺は前から奪いに行く」と自分のやりたいことしか話さないようにしています。周りの選手に対しての指摘は、禁止です。

そうすれば、中盤の選手は「俺はこぼれ球を狙う」、DFの選手は「絶対に空中戦で競り勝つ」とポジティブな発言が続き、チームの雰囲気は良くなるでしょう。

 

■チームの雰囲気は勝つ力につながる

試合中でも、前線の選手がボールを失った際に「もっとフォローを速くして」と周りの選手に伝えると、周りの選手は「すぐに奪われるからフォローに行けない」と考え、チームの雰囲気が悪くなります。

しかし、「次はもっとキープできるように頑張る!」と話せば、周りの選手は助けるために素早くフォローに走ろうと前向きに次のプレーを頑張れるでしょう。高校生は放っておくと、そこまで考えて発言しないので、最初のきっかけとして大人がきちんと声掛けの方向性を示すべきだと考えています。

野球で例えるなら二回も三振した、エラーをしたなど反省は自分一人ですべきです。チームメイトに対しては「次は必ずホームランを打つから!」と前向きな言葉を発し、チームの雰囲気を良くすれば、試合で勝つ力になるのです。

特に、インターハイや選手権のような短期決戦には大切な考えで、大会期間中はチームを良くするための行動、発言、表情をすべきで、負のオーラは一切出さないよう伝えています。

 

■発想のきっかけは中山雅史選手の姿勢

こうした発想の原点は元日本代表の中山雅史選手(現・アスルクラロ沼津)のダイビングヘッドとスライディングです。

身体を投げ出しても届かないクロスに対しても、中山選手は必ず「ナイスボール!」と伝えます。

ダイビングヘッドやスライディングでも届かないボールはパスミスですが、それでも前向きな言葉を掛けられたチームメイトは「次は必ず良いボールを出します!」と次のプレーの活力になるのです。

 

■前向きな思考は社会に出てからの人付き合いを豊かにする

梅木翼(レノファ山口FC)は高校時代から、常にそうした前向きなプレーができる選手でした。チームが上手く行かない時に守備から試合に入ろうと考え、届きもしないスライディングを繰り返し、チームを盛り上げていました。

ボールに届かず、セカンドボールが拾われても、「こぼれ球に反応しろよ」とチームメイトに愚痴を零すのではなく、「悪い! 俺が寄せきれなかった」と口にしていました。そうした前向きな言動を続けるから周りが発奮し、チームの雰囲気が良くなるのです。

前向きな思考は高校を卒業して社会に出てから求められる要素だと考えています。同級生だから、同じ部に所属しているからとの理由でなんとなく人付き合いをする高校生までとは違い、大学生や社会人になる19歳以降は違和感を覚えれば人付きをする必要はなくなります。

自分が上手く行かない時に不貞腐れていても、周りが「元気出せよ」と励ましてくれていた18歳までとは違い、無視されるようになるのです。年を重ねるごとに自分と合わない人に合わせる時間は勿体ないと考えるようになり、気の合う人、心が通じ合える人との時間を大事にするようになります。一緒にいて、暗い気持ちになる人だと人付き合いがなくなってしまうのです。

 

■苦しい状況が続いても人前では前向きに振舞うのも一流の条件

プロスポーツ選手にも当てはまる考えです。Jクラブの収入は、ファンやサポーターの方からの入場料が多くを占めています。チームを応援する人だけでなく、"あの選手を応援したい"と思う人たちが足を運んでくださるから、選手はサッカーで生活ができるのです。

ネガティブな言動する選手であっては、応援する人が増えません。チームが勝てず苦しい状況が続いたとしても、人前では常に明るく前向きに振舞えるのが、一流のプロスポーツ選手の条件だと考えています。

<後編へ続く>

 

※この記事は常に自分に問え! チームの為に何が出来るか 立正大淞南高校の個とチームの磨き方(竹書房・刊)より抜粋したものです。

 

南健司監督
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