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「球際の激しさ」だけではない、ボールを奪える子どもの育て方

公開:2021年4月 5日

キーワード:1対1U-12コーチジュニアディフェンストレーニングドイツ声かけ指導法育成

少年サッカーのピッチにこだまする、コーチやお父さんお母さんの「飛び込むな!」という声掛け。ゴールを守る場面で、子どもたちが相手選手のボールを奪いに行ったもののスカッと交わされてしまう。これは、ボールを奪える間合いやタイミングではない、相手選手がこちらのアクションに対応できる姿勢やタイミングで飛び込んでしまうために起こります。

そこは、不用意に飛び込まずにボールを奪える間合いやタイミングになるまで我慢することがセオリーですが、これを子どもたちに理解して実行してもらうことは容易ではありません。しかし、だからといって子どもが「ボールを奪いたい」と思い起こした行動を、安易に「飛び込むな!」の一声で片付けてしまっていいものでしょうか? もしかしたら、子どもには子どもなりの飛び込んだ理由があるかもしれません。

ケルンで初となるサッカースクールを創設するなど「ドイツ育成の第一人者」として名高いクラウス・パブスト氏に、「ボールを奪うこと」について話をうかがってきました。(取材・文 中野吉之伴)

※この記事は2015年4月配信記事の再掲載です。
 
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クラウス・パブスト氏
子どもたちを指導するクラウス・パブスト氏

■ドイツが、ボールを奪うことを重要視する理由

長谷部誠や、遠藤航など多くの日本人選手がブンデスリーガで活躍していることもあり、日本のみなさんもドイツサッカーについて少しはご存知のことかと思います。ドイツサッカーの代名詞とも言えるのが「ツヴァイカンプフ」、つまり1対1の状況におけるボールの競り合いになります。

ドイツ人にとって、このツヴァイカンプフでの勝率は非常に重要な要素であり、ブンデスリーガでも基本データの一つとして数値で出されます。長期的視野で行われたタレント育成プロジェクトが導入される前は、それこそこの“ツヴァイカンプフこそすべて”というコーチも多かった。プロからアマチュア、あるいは子どもたちまで“ツヴァイカンプフに勝てないと試合には勝てない”と捉えています。まさにドイツのメンタリティの特徴であり、伝統とも言えるでしょう。
だから育成プロジェクトをスタートさせても、「モダンサッカーを浸透させるんだ」といって無理やり戦い方をスマートにするのではなく、自分たちの強みでもあるツヴァイカンプフを融合させた形で取り込めるように試行錯誤を繰り返しました。

さて、日本でも代表監督だったハリルホジッチが“玉際の激しさ(デュエル)”という点に言及したことで、ボールをめぐる奪い合いに焦点が当てられるようになりました。実際に少年サッカーのさまざまな現場で変化が表れていると聞きます。こうした変化は非常にポジティブなものと捉えることができます。

■どうしたらボールを奪えるようになるのか?

では1対1の状況において強調すべきは「激しさ」だけなのでしょうか。クラウスは激しさが大切ということを認めた上で、

「勝つために必要なのは自分たちの長所。短所を直そうとするだけでは勝つことはできない。長所で短所を補えるようにならなければならない。日本人選手が単純なパワー勝負で分が悪いならば、そうではないやり方で奪う方法を身につけることが大事だろう。つまり、1対1の身体のぶつかり合いで勝てないのならば、相手の前でボールを奪うことをまず考える。それができるように常に数的有利な態勢が取れるようにする。そうやって相手にプレッシャーをかけることで、相手のミスを誘発することもできる。そのためには走力、そして守備の規律が必要になる。それは日本人にできることだ」と指摘しました。

なるほど、数的有利を作り、運動量と規律正しい連携で相手のミスを誘発する。しかしそれはこれまでも日本がやってきたこと。ミスを待っているだけでは、相手の力が優ればミスをしないままゴール前まで持ち込まれてしまう。球際への激しさをミックスさせ、よりプレスの強度を高めることができる。しかし、闇雲に奪いにいくだけではかわされてしまう。どこかで奪いきらなければ。しかし、どうやって?

こちらの疑問に対してクラウスは「例えば」と前置きをして、

「バイエルン・ミュンヘンにフィリップ・ラームという選手がいたのを知っているかい? 彼は小柄な選手(170cm)だったが、ピッチ上で最も激しいボールの奪い合いが求められる守備的MFの位置に彼はいた。でもほとんどの競り合いに勝利する。体のぶつかり合いで奪っているわけではない。それだと力の強い選手のほうが有利だ。だからそうした状況は避けなければならない。そのためには戦術的なクレバーさが必要だ。クレバーさと数的有利な状況、そして奪いに行く(懐に飛び込む)タイミングが合えば、フィジカル的に不利でもボールは取れる」

と説明を加えました。グループ、あるいはチームとしての戦い方の前に、選手それぞれがどのようにボールを奪うのかの術を持つことが大切だということになります。自分の長所を把握し、スピードが武器ならばそれを活かしてボールを取るポジショニングとタイミング、そして距離感を身につけるためにトレーニングを重ねることが重要になると言うわけです。ではそのために注意しなければならないことはなんでしょうか。

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長所をのばせばボールを奪えるようになる

小さい子どもたちにまず大事なのは個人戦術。1対1での対応だ。いつどこでどうやって取りに行くべきかを学ぶんだ。もちろんただ無闇に飛び込んでも取れない。でも取りに行こうとしなければいつまでたっても取り切ることができない。試合では積極的な気持ちが裏目に出て、相手に突破を許して失点することもあるだろう。でもそうした経験を繰り返して改善していくことでしか、サッカーはうまくならない。子どもたちには負けてもいいなんて言わない。だれだって勝ちたいんだ。でも大人は、指導者はそれだけを見ていてはダメなんだ。子どもたちがより成長するために、より良いサッカーに挑戦しようとしているかを観なければならないんだ」

クラウスは言葉に力を込めて、何度もこの点を強調していました。日本人の子どもでもサッカーを始めたばかりの頃は夢中でボールに向かっていくし、必死にボールを取り返そうと追いかけているはずです。つまり「激しさ」は大事なスタートライン。そこから何度もミスを重ねながら個人戦術を学び、少しずつ「クレバー」なプレーを習得していくことが重要なのです。

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クラウス・パブスト(Klaus Pabst)

ドイツの名門「1.FCケルン」でユースコーチや育成部長を務め、多くのブンデスリーガを輩出。ケルンで最初となるサッカースクール「1.Jugend-Fusball-Schule Koln」を創設し、サッカー指導者養成機関としても知られる国立ドイツ体育大学ケルンで講師を務めるなどドイツサッカー育成の第一人者である。
日本へは何度も訪れており、指導者講習会や選手へのクリニックを開催。日本サッカーの育成にも造詣が深い。

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取材・文 中野吉之伴

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