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超集中状態! ゾーンに入る方法

入ろうとするほど遠のくゾーンの秘密とは!?

公開:2014年4月30日 更新:2014年9月24日

キーワード:コーチングメンタル

メンタルトレーニングを専門とするスポーツドクター、辻秀一さんの短期連載もいよいよ最終回です。
 
第3回は『ポジティブシンキングの落とし穴』というテーマをお届けしました。本当は良くないことが起こったのにもかかわらず、それを無理に良いこととして上書きするプラス思考は、自分をだます必要があるので、すごく疲れてしまいます。それよりも、揺らがず、とらわれず、いまその瞬間に生きるモチベーションを大切にする。いま、その状況があることをあるがままに受け入れる。そして、ときには羽生結弦選手のように、自分の心を俯瞰して「ははっ」と笑い飛ばすくらいの余裕を持てば、心はごきげんなフロー状態に近づきます。
 
最終回となる今回は、これまでに紹介したような有名なプロ選手の例ではなく、もっとみなさんにとって身近なこと、たとえば普段のサッカーや日常生活の中にある悩みや問題点を取り上げて、辻さんにいろいろな質問をしています。
 
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試合中
取材・文/清水英斗 写真/田川秀之・サカイク編集部
 
 

■「気にするな」という声掛けはマイナス効果!?

第3回ではフローが起こりにくい例のひとつとして「気にするな」という言葉を取り上げました。みなさんも試合中に誰かがミスをしたとき、「ミスなんて気にするな!」と言ったことがありませんか? ところが「気にするな」と言われれば言われるほど、気にしてしまうのが人間の心理というもの。では、周囲や指導者はどのように声をかけるのが正しいのでしょうか?
 
「相手のパフォーマンスを向上させるためには、行動の内容に対して働きかける“指示”と、心をフロー化させるために働きかける“支援”。これら2つのアプローチがあります。たとえばバスケットボールで言うなら、タイムアウトを取ったとき、まずは何をしなければいけないか、戦術を説明します。このとき、いかに“明確な”指示ができるかが重要です。マンツーマンが利いてないからゾーンに変えるとか、サッカーで言うならフォーメーションを変えるとか。何をしなければいけないか、まずは“指示”をする力が指導者には絶対的に必要とされます。これは専門的なテクニカルスキルとして、どこまで戦略分析できて、何をしなければいけないかを教える力です」
 
あいまいに“ミスを気にするな”と言うよりも、どうすればミスを起こさずにプレーできるのか、その明確な解決策を指示していくこと。これはサッカーや対象となる競技を、よく知っている人でなければできません。指導者には当然、そのようなテクニカルスキルが求められます。そしてもうひとつ。
 
「人間は心で動いているので、フロー化を起こすための“支援”が必要です。僕はテクニカルな部分の“指示”の必要性を否定するつもりはありません。ただ、心技体という言葉があるように、心がベースとして整っていなければ、“指示”をしても本来のパフォーマンスは出せません。たとえばバスケで、残り3分を切って10点差を追いつかないといけないから、チャンスがあればスリーポイントをどんどん打っていいぞと。特にM君が最終的に打つようにと。だけど、その試合でM君がたまたま当たっていなかったとするじゃないですか。そうすると、M君に『おまえがキーマンだから絶対やれよ』とか、『お前外れてるけど絶対に次入れろよ』とか、言えば言うほど余計にとらわれるわけですよ。人間は過去と未来にとらわれて生きているので、いかにそこから解放させ、『今その瞬間に生きる』という気持ちにさせるかが重要です」
 
フロー化を起こそうと思ったら、ひとつの手段として、好きなものを考えるといいと辻さんは言います。
 
「ぼくが監督をしているバスケのチームの場合、日本選手権の試合前にぼくが伝えたのは、全員に『好きな食べもの言ってみろよ』と。たとえば今日の試合の戦略はこうだと、コーチがしゃべりますよね。選手の顔を見ると、緊張している。そしたら、『なに、その顔』と突っ込んでみる。それを急に言ったらわけがわからないけど、僕のチームでは日ごろからそういう言葉、表情、態度、思考を大切にする訓練をしているから、『お前それでフローなわけ? 好きなものを考えてみろよ』とか冗談めかして言うと、みんな笑う顔をするわけですよ。『今に生きるって叫ぼうぜ! 今さら練習したってうまくならないんだから! 今日負けたらどうしようって、思ってるやついるだろ!』とか。つねに指示と支援がセットになって、フロー化を起こすんです」
 
このようなメンタルトレーニングの理論を聞いて、「これはうちの子どもにもできるだろうか」と考えている人はいませんか? しかし、考える必要はないのです。心のフロー化によるパフォーマンス向上は、大人よりも子どものほうが起こしやすいのですから。
 
「これをやると“余裕”が生まれて“ごきげん”になることは、子どものほうがよくわかります。逆に大人の場合は下手をすると、『笑うとなぜ気分が良くなるかを証明してくれなければ俺は笑わないぞ』と屁理屈を言う人が増える傾向にあります。このように大人のほうが理屈をこねてうまくいかないことが多いです。ソチオリンピックの選手を見ていても、若いころは意味付け自体が少ないから、ライフスキルが高いというよりは認知が低くて、怖いものがなかったりするんですよ。だからフロー化は起こりやすいし、浅田真央も石川遼も、技術さえあれば10代でも世界に行ける。ところが年齢を重ねて、だんだん意味が付いてくると認知が長けてくるので、そこで壁にぶつかります。そのとき、何かの学習や気付きを、人から、本から、あるいは先生みたいな人に出会うなどして、ブレイクスルーできなければそこで終わってしまいます。心がフロー化して、勝てるかどうかはわかりません。でも、フロー化すればパフォーマンスが向上するので、勝つ可能性が上がる。大人は認知が優れてしまって外側にしか成果を求めないから、理屈をこねます。そうではなく、気分がいい、心が整った状態で一生懸命にプレーをすること自体が気持ちいい。それが答えなんですよ」
 
試合中
 

■ライフスキルで、苦手なヘディングに前向きに取り組む!

好きなものを考えると心のフロー化が起きやすいのと同じく、好きなことをしているときは自然とフロー化が起こりやすくなります。たとえばドリブルが好きな子どもは、ドリブルの練習に対して、自然とフロー化した状態で取り組むことができるでしょう。それよりも問題になるのは、たとえばヘディングが嫌いな子、苦手と思っている子に、どういったコーチングをすれば前向きにヘディング練習に取り組んでくれるでしょうか。そこにメンタルトレーニングの必要性があります。
 
「いままでと同じ話ですが、人間は意味で動くか、感情で動くか、この2つです。ヘディングを鍛えなければならない理由や理屈を説明して、練習させるのは認知的な指示です。漫画のスラムダンクで言えば、桜木花道にシュート練習2万本を打たせるためにビデオを見せて、お前ちゃんと打てていると思っているけど、じつはこんなに流川より下手くそで不格好なんだと。そして、お前がインターハイでシュート決めるってことは、うちが勝つこと、お前がヒーローになれるんだと。そういう意味を伝えてあげたんですよ。意味で人は動くから、まずは認知に働きかけることも重要です。
だけど、そうすると意味付けも同時に起こってノンフロー化する可能性もあるので、苦手なのもわかるけど一生懸命やってみようぜとか、成長することや、好きなことをイメージしながらやってみろとか、いい顔してるぞとか。感情に働きかけることも必要。これは習慣、ルーティーンなんですよ。縁起をかつぐのとは全然違います。イチローがなぜバッターボックスに入るときに同じ流れで構えを作るのか。それは心が整うからなんですよ。すべては心を整えるために、思考、表情、態度、言葉が重要になるんです」
 
以前、横浜F・マリノスプライマリーの西谷冬樹監督のインタビューを行ったとき、ヘディングが嫌いだった子が、たまたま試合でヘディングのゴールを決めた途端に、前向きにヘディング練習に取り組むようになってぐんぐん上達した、という話がありました。
 
「それはゴールという成功が起こったことによる、結果エントリーの動機付けと言えると思います。結果としてヘディングが成功したおかげでフロー化が起きましたが、そういう偶発的なきっかけがなくてもやれるようにしたい、というのが僕の専門です。もちろん外発的に、認知的に結果エントリーしてはいけないということではないし、そういうきっかけを生かすことは大事です。しかし、そうじゃない方法もメソッドとして持っておけば、もっと指導の幅が広がって人を伸ばすことができます。外発的な認知とは別の回路を、心の中に育める選手が成功するんです」
 
小学生といっても高学年になれば、だんだんと意味付けにまみれてくるでしょう。そこで大事になるのはコーチだけではなく、親であると辻氏は指摘します。
 
「コーチは週に何回ずつ、数時間しか会っていないので、家に帰った後に“AくんもBくんもできているのに、なんであなたはできないの?”とか言われると、コーチが良い声をかけていても、フローやゾーンからは遠くなってしまいますよね。
これはスポーツだけの話じゃないんです。ライフスキルだから、人生すべての役に立つ。サッカー以外の日常にも役に立つし、サッカーを引退した後にも役に立つ。なぜ、嫌いな算数をやらなきゃいけないのか。なぜ、苦手な国語をやらなければいけないのか。その意味を教えるのが“指示”、そんな嫌いなことでも前向きになれる言葉や表情に働きかけるのが“支援”。うちのチームはこういうことを大事にするんですよと、それを親にも伝えて、育んでいく。そういうチームが増えることが僕の望みです」
 
具体的なメンタルへのアプローチには、さまざまな方法があります。たとえば辻氏が指導するバスケチームでは、スラムダンクの例を持ち出すことで大切なことを伝えやすくしているそうです。そういえば、今年の高校サッカー選手権で優勝した富山第一高校サッカー部は、たくさんの地域の人と関わることを大切にしながら、障がい者の方と一緒にサッカーをやるといった活動もしていたそうです。このような課外活動はどのような影響を与えるのでしょうか?
 
「それはすごく良いですよ。選手たちのライフスキルも育つし、何よりも、障がい者の人は、“今に生きる”ことを考える力が高いんです。そういう力がなければ、過去のことを考えて、なぜあそこでケガをしたんだろうとか、なぜ車椅子生活になったのか、なぜあいつの車に乗ってしまったのか、なぜ自分だけ生まれながらにしてこの身体なのか、未来はどうなるのか。そう考えてしまいます。僕も車椅子バスケのチームで、パラリンピックに2回行きましたけど、選手たちは一日中、“今に生きる”って考えていますよ。そういう人と触れることで、ライフスキルを学べることもある。それに、いろいろな経験をしないと認知の幅も広がりません。つまり、一個の意味付けだけで生きてしまうんです。年を取って、まろやかになれる人は、意味付けも広がってくるんですが、そこを広げずに、意味付けが固定化されて頑固な人間になるパターンもあります。自分の意味付け以外を受けつけないほど、頑固になってくるとやばい。でも、経験と共にいろいろ学んでいくと、日本では当たり前と思っていたことが、実はすごくありがたいことだと気づいたり、認知が広がると、一個の意味付けで生きているよりもずっとフロー化が起こりやすくなります」
 
どのような具体的なアプローチでフロー化を起こすか。それは個々のチームに別の正解があるのでしょう。ただ、確かに言えることは、選手や子どもをフロー化させるためには、指導者や親もフロー状態でなければいけないということ。
 
「心がフローで“ごきげん”なほうが、人の話を聞けるし人に優しくなれますよね。イライラしているときは人の話を聞きにくいし、ムカついていると人に優しくできない。ということは、自分の心を整える力は、結局、人のためになるということです」
 
4回に渡り“ゾーンに入る方法”をお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。自分自身や周囲の人たちの思考、表情、態度、言葉について、今一度振り返るきっかけとなれば幸いです。
 
 
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辻 秀一さん
辻 秀一
スポーツドクター。株式会社エミネクロス代表。
 
1961年東京都生まれ。99年、QOL向上のための活動実践の場としてエミネクロスメディカルセンター(現:(株)エミネクロス)を設立。スポーツ心理学を日常生活に応用した応用スポーツ心理学をベースに、パフォーマンスを最適・最大化する心の状態「Flow」を生みだすための独自理論「辻メソッド」でメンタルトレーニングを展開。エネルギー溢れる講演と実践しやすいメソッドで、一流スポーツ選手やトップビジネスパーソンに熱い支持を受けている。現在、「辻メソッド」はスポーツ界だけではなく、そのわかりやすく実践しやすいメソッドに反響を得てビジネス界、教育界、音楽界に幅広く活用されている。またドクターという視点を活かし、現在は健康経営という考え方を取り入れた新しい企業の経営の在り方を、産業医として取り組み、フローカンパニー創りに大きな成果を上げている。辻メソッドの真髄を学べる「あなたの人間力を10倍高める心と脳のワークショップ」は、一流アスリートやトップビジネスパーソンから大学生や主婦、コンサルタント、経営者まで、老若男女が参加。心と脳の仕組みをわかりやすく、すぐに実践できるこのワークショップは毎回大きな感動を呼び、受講者から「世界NO.1」との声もあがっている。また、スポーツの文化的価値の創出を提供するNPO法人エミネクロス・スポ-ツワールドの代表理事もつとめる。複数のスポーツが1日で楽しめるスポーツのディズニーランド「エミネランド」や、スポーツを "する" だけではなく "聴く" "支える" という形でスポーツに触れる機会を独自の形で提供している。「スポーツを文明から文化」にする活動をミッションに一般社団法人カルティベイティブ・スポーツクラブを設立。2013年より日本バスケットボール協会が立ち上げる新リーグNBDLに東京エクセレンスとして参戦予定。
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取材・文/清水英斗 写真/田川秀之・サカイク編集部

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