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『考え抜く』子どもを育てるために

育成指導者は答えを与えるのではなく、子どもが答えを出す様子を見守ってほしい

公開:2012年10月15日 更新:2020年3月24日

キーワード:指導者育成

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1992年からG大阪のユース監督や育成部長などを歴任し、「自ら考えさせる」という一貫した哲学の元に宮本恒靖や稲本潤一など多くの名選手を育てた上野山信行氏。たくさんの経験を経て、今は指導者を育てる立場になった同氏は、日本サッカーを支える指導者たちの姿について日々感じていることがあるそうです。
 
たくさんの練習メソッドや戦術トレーニングの知識が日本に伝えられる中で、同時に、私たちが見失っているものはないでしょうか? 上野山氏からは、日本のサッカー指導に対するたくさんの問題提起を頂きました。
 
 

■選手と指導者の間に“合意”はありますか?

「サッカーは答えがないスポーツ」―。
 
 ボールをしっかり保持することが正解なのか、縦にどんどんチャレンジするのが正解なのか、高い位置からボールを奪いに行くことが正解なのか、引いて守ることが正解なのか。サッカーには、ゴールの数で相手を上回るという大きな目的がありますが、それを達成するための手段は無数にあり、そこには唯一の正解は存在しません。それぞれの国の文化、あるいは個々のチームのコンセプトによって異なります。大切なのは、その正解が同じチームの指導者と選手の間で合意されていること。上野山氏は次のように語ります。
 
「私が子どもたちに定義しているのは、ゴールを奪うのも、ボールを奪うのも、短い時間で行える選手がうまい、ということ。なぜなら、時間をかけずに目的を達する選手でなければ世界では通用しないからです」
 
 このような合意を大前提として、例えばドリブルとパスのどちらかで迷ったとき、パスのほうが速く相手ゴールへたどり着けるのなら、それが正解となります。チームのコンセプトに関して基準が明確なら、選手は迷いません。しかし、そのような合意がないまま、指導者が場当たり的に「今のはパスだろ!」「なんで仕掛けないんだ!」とコーチングすれば選手は戸惑ってしまいます。“より短い時間で行えるプレー=質が高い”というシンプルな正解により、上野山氏はチームに基準を与えていました。
 
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 また、上野山氏はプレーの判断に関して、指導者が詰め込むのではなく、子ども自身が“考え抜く”ことを重要視しています。
「サッカーというスポーツ、特にオフェンスには“絶対的な答えがない”のが前提なので、その答えを自分で考えてプレーする選手のほうが、選択肢をたくさん持ち、瞬時にプレーを実践できるようになります。また、コーチに与えられた答えではなく自分自身が考えたことなら、プレーの決断に関して自身が責任を負います。成功しても失敗しても、その結果が子ども自身に還元されるのは大事なことです。
 
全員ではないですが、近年のコーチは子どもがプレーの選択肢を学んでいる段階なのに、“ああしろ、こうしろ”と手段を教え込みすぎるのではないかと私は感じます。子どもは指導者に言われた通りにやらないと試合に出られないと思い、指導者に気に入られるプレーを目指そうとしてしまいます。それにより、その選手が本来持っていた個性は埋没する。それは人間だからそう思うのは仕方がない。指導者もリーダーですから、そういう従う人の思考を理解しないといけないと思います」
 
 チームの中に確かな基準をつくり、それに対してどのような判断をするかは選手に委ねる。大人が正解を与えないことで、子どもの可能性をつぶさないように心がける。例えば、上野山氏がG大阪ユースの監督として宮本恒靖や稲本潤一らを指導したとき、試合前には次のようなコーチングをしていたそうです。
 
「まず、“今日のゲームの目的はこういうことですよ”と最初に伝えておきます。そしてハーフタイムに選手同士がその目的について話をしていたら、僕は特に何も言いません。もしも話が合ってなかったら“今の目的と合っているか?”と問いかけたり、言葉を付け足したりしますが、基本的には状況を見た中でこちらが与えたテーマに対して選手がどんな反省をしているのかを見守っています」
 
 答えを与えるのではなく、子どもが答えを出す様子を見守るということ。それこそが育成の指導者に求められる資質であると上野山氏は語ります。
 
「戦術ボードや映像を使って長々とミーティングする人もいますが、それをやると、ほとんどが私の説明になる。だけど私が言っても仕方がないですよね。子どもがいっぱいしゃべらないと。その中で言葉を聞き分けて、「なんでそうするの?」と子どもに問いかけたときに、どういう答えが返ってくるかが大切です。私は試合も選手たちに任せていましたよ。そのための準備は普段の練習でしているので」
 
 指導者と選手の間に基準の合意があること。そして、それに対する答えは選手自身が出していくこと。上野山氏の指導哲学は、このような考え方がベースになっています。
 
 
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上野山信行(うえのやまのぶゆき)//
公益社団法人日本プロサッカーリーグ技術委員長
1957年大阪府生まれ。
1976年からヤンマーディーゼルサッカー部でDFとして活躍し、1986年引退。
その後、釜本FCでジュニア、ジュニアユースの指導を皮切りに、92年ガンバ大阪ユースの監督に就任。
2009年Jリーグ技術委員長に就任し、現在に至る。
「自ら考えさせる」一貫した指導で、多くの日本代表選手を育てている。
日本サッカー協会公認S級コーチ。
 

 

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取材・文/清水英斗 写真/サカイク編集部

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