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U‐12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2016

"対戦相手を思いやれる"バルサの12歳は、どのように育てられるのか

公開:2016年9月 1日 更新:2020年3月24日

キーワード:FCバルセロナジュニアサッカーワールドチャレンジ人間性選手育成

FCバルセロナの2年ぶりの優勝で幕を閉じた今年のU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ。さまざまなメディアで取り上げられているので、ご存知の方もいると思いますが、決勝でバルサの選手たちがとったある行動がネットに配信された映像を通じて世界中で賞賛されています。彼らの行動は大人、子どもではなく、一人のサッカー選手として尊敬に値する行動でした。では、なぜ彼らはとっさに敗者をたたえる行動がとれたのでしょう? 第1回大会から本大会のメディアパートナーとして継続取材を行うサカイクでは、彼らの立ち居振る舞い、人間性とバルセロナの人間教育に早くから注目していました。(取材・文 大塚一樹)
 

■ワールドチャレンジ決勝のバルサの選手の行動が世界中で感動を呼ぶ

試合終了後、惜しくも敗者となった大宮アルディージャジュニアの選手たちに歩み寄り、声をかけ、健闘をたたえる選手たち。大宮の選手の目を見ながら一人ひとりに話しかけるバルサのキャプテン、アドリア・カプデビラ選手の姿は「サッカー選手の鏡だ」と絶賛されています。
 
 
さらに、彼らの「グッドルーザーである大宮をたたえたい」という気持ちは試合終了後のセレモニーにも続きます。2位の表彰が始まる直前、選手たちがセルジ・ミラ監督の下に集まり、なにやら相談を始めます。セルジ監督が頷いたのをきっかけに、バルサの選手たちが大宮の選手の進路に花道をつくり、拍手で出迎えたのです。
 
「選手たちが花道を作りたいと言ってきました。彼らは多くの試合を行い、それだけ多くの勝ちと負けを知っています。試合に負けた選手たちがどんな気持ちなのか、勝った選手はどう振る舞わなければいけないのか。彼らは決勝をともに戦った大宮アルディージャジュニアの選手たちに“ありがとう”という気持ちを伝えたくて自発的に行動したのでしょう」
 
セルジ監督は、試合後の会見で選手たちのとった行動についてこう話しました。
 
大宮アルディージャジュニアの最後まで諦めないサッカー、バルセロナをも苦しめる健闘を見せたことが彼らの琴線に触れたのは間違いありません。それでもああした行動をとっさの判断で、しかも自主的にすることは、お子さんをお持ちのお父さん、お母さん、指導者の方々には実感を持って共感していただけると思いますが、教えてできることではありません。しかし、バルセロナの指導者、スタッフ、チームに関わるすべての人々は、普段から彼らが「バルサの選手として恥ずかしくない振る舞い、プライドを持つ」ことを求めているのです。それは過去に来日したチームに共通することでした。
 

■バルセロナの選手として相応しい行動とは

「全員がプロのサッカー選手になるわけではありません。だから人間として何かが欠けることのないように人間教育にも力を入れているのです」
 
これは2013年に来日したチームに帯同していた当時の下部組織(カンテラ)の総責任者、ギジェルモ・アモール氏の言葉です。アモール氏はこれだけ圧倒的なバルセロナの選手でも、プロサッカー選手として活躍できるのは一握り。「サッカー選手である前に人として、バルセロナの一員として生活面、態度、もちろん勉強もおろそかにしてはいけない」と語ってくれました。
 
[U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2013特集]人生はサッカーだけじゃない。社会に適応するバルサの人間教育
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このときの大会で通訳スタッフに話を聞いて感心したのは、観光で訪れた浅草で、落ちていたゴミを選手が素通りしたときのコーチの対応でした。
 
「あのゴミは自分で捨てたものではないかもしれないけれど、見て見ぬ振りすることがバルサの選手として相応しいか?」と問いかけたそうです。バルセロナの選手たちともなればサッカー一辺倒、プロになれればそれで生活できるという考えをしても良さそうなものですが、いい選手である前にいい人間、そして何より“バルサの選手”であることを要求され、それを常に意識した行動をとるように教育を受けるのです。
 
今大会でも、表彰セレモニーを盛り上げたバルセロナの選手たち。大宮への振る舞いもそうですが、自らの優勝を祝うかけ声やカップを受け取る際に喜びを爆発させる演出は、まさに大人顔負けでした。彼らがこうした大会で優勝慣れしているということ、テレビでトップチームが優勝するシーンを何度も見ている影響もあるのでしょう。会場にいた人たちも巻き込んで大騒ぎが始まります。彼らはこうしたセレモニーも全力で喜び、楽しみます。もちろん、優勝には格別の喜びがありますが、この大会がスポンサーや運営スタッフ、多くの人の努力によって成功したことを知っているのです。
 これも第1回大会のことですが、優勝を決めた後、今大会と同じように大騒ぎするバルサの選手たちが、子どもらしい無邪気な喜びの表情を見せた直後、優勝記念の写真撮影のでは、スポンサーボードがしっかり見えるように写真に収まっていたのです。
 
[U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2013特集]12歳のプロ集団。子どもたちが"バルセロナらしくある"理由
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 歴代のバルセロナの監督は、来日時に必ず大会を実現してくれたスポンサーやスタッフにお礼の言葉を述べます。選手たちにもこの大会が誰のおかげでスムーズに運営できているか、サッカー選手はそうした人々の支えがあって試合を行えることを伝えていると言います。プロらしい振る舞いにはプロに相応しいメンタリティ。こうしたステップを経たバルサの選手たちが、どういうサッカー選手、大人になるか想像するのは難しくないでしょう。
 

■「バルサらしくあるために」秘密は徹底した人間教育にあった

彼らの教育を行うのは監督やコーチだけではありません。バルセロナでは各カテゴリに“バルサのメンタリティ”を象徴するコミッションという役職があり、バルサにゆかりのある年長者が選手たちにバルサらしさを徹底して伝えています。昨年の大会では、コミッションのエミリ・コール・グイシェンスさんとホペイロのジョアン・ガソル・ロドリゴさんにお話をお聞きしました。
 
[U‐12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2015]「おまえの日じゃなかった。明日またがんばろう」FCバルセロナの子どもたちを支える大人の役割
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サッカーを教えるコーチと、生活面を支えるコーチ。選手との距離が近い彼らのような役割を常駐させていることが、バルセロナというクラブが「サッカーを通じて子どもたちを大人に、そしてバルサの選手に、紳士にする」ことを大切にしていることのあらわれです。
 
ここまで見れば完璧とも思えるバルセロナの子どもたちですが、彼らもスーパーマンではなく、12歳の子どもです。東京U-12と引き分け、PKの末敗れてしまった昨年の大会では、審判に抗議し、セルジ監督から注意を受けるというシーンもありました。
 
[U‐12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2015]ワールドチャレンジが教えてくれたこと1 審判への抗議は止めよう!それはサッカー選手としての誇りに反する行為
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試合後の会見でセルジ監督は試合内容について語る前、真っ先にこのことを謝罪しました。
「最初に審判のみなさんに謝りたい。選手たちが抗議をしていたが、ああいう態度はどんな試合であってもとってはいけない態度でした。申し訳ありませんでした」
 あなたなら審判に抗議する子どもたちを注意するとき、どう説明するでしょう? 審判に抗議してはいけない。審判は絶対だ。一緒になって抗議した大人は、「間違いがあっても審判だって人間だ」と言うかもしれません。色々な言い方や見方がありますが、そこは普段から、何を大切し、教えているか、子どもたちにどう接しているかが大切な気がします。
 セルジ監督は3位決定戦を控えたロッカールームで、技術や戦術を語る前に選手に問いかけました。
「バルサの選手ならどうすべきだと思う? あの振る舞いはバルサの選手に相応しくない」
 
いま話題になっている選手たちの敗者をたたえる行動も、こうした基準を持って、選手育成、人間教育に取り組んだバルセロナだからこそできた行動、彼らにとってはプレーよりも重要な、バルサの選手として当然行わなければいけない行動だったのです。
 
大塚一樹
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジは第1回大会から取材、レポートを担当している。最新刊に『一流プロ5人が特別に教えてくれたサッカー鑑識力』。Facebookページはコチラ
 

 

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取材・文 大塚一樹

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