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考える力

「関係の質」を高めることが強いチームを育てる

2012年5月23日

キーワード:コミュニケーションコーチング育成

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■最強チームの作り方とは?

『強いサッカーチーム』を作ろうとするとき、みなさんが指導者なら、どのような方法が思い浮かぶでしょうか?
 

・練習時間を長くして、スパルタ教育を施す
・有名な監督の練習メニューを取り入れる
・有名なサッカースクールに選手を通わせる

 
このような個々の方法論が正しいのかどうか、それはやってみなければ分かりません。ただし、このとき忘れてはいけないのは『選手たち自身の目的意識がハッキリしているのか?』ということです。
 
どんなにハードな練習を課しても、肝心の選手自身が「やらされている感覚」で取り組んでいれば、練習の効果は上がりません。ましてサッカーは、ピッチ内での自主的な状況判断が求められるスポーツ。やらされることに慣れてしまった指示待ちタイプの人間では、優れたサッカー選手とは言えません。
 
また、どんなに有名な監督の練習メニューでも、たとえばレアル・マドリードのチーム戦術のメニューを物真似し、少年サッカーやジュニアユースでそのまま実践したとしても、思うような練習効果は得られないでしょう。環境も能力も全く違うのに、「あの人が成功したから」という理由で物真似をするのは得策ではありません。とかく人間は、成功に対する近道や特効薬を求めたがるもの。有名監督の奇抜な練習メニューに飛びついたりするのも、その習性の一つと言えるかもしれません。
 
しかし、そのような枝葉の部分に進む前に、まずはチームの幹として「自分たちは何を目指すのか? なぜそれを行う必要があるのか?」という自主性を、選手1人ひとりの中に根付かせることが大切です。チームワークの質が高いチームは、目的意識がハッキリしており、「チームの目的を果たすために自分は何をするべきなのか?」といった自発的な行動が選手の中から生まれ、パフォーマンスを自律的に上げる組織として機能します。
 
そのような自律型のチームを作るにはどうすればいいのか? 指導者はどのようなコミュニケーションを取れば、質が高いチームに成長させることができるのか?
 
今回はそのヒントを得るため、早稲田大学アーチェリー部で監督を務める守屋麻樹さんにインタビューを行いました。同部は、文部科学省がすすめている『最強チームの作り方』(リーダーシップやフォロワーシップなどチームワークの質を向上させるための体験活動を普及、啓発するプロジェクト)への参加チームの一つです。
 
守屋さんは2004年のコーチ就任時にはバラバラだったアーチェリー部が、徐々に自律型のチームへと成長していく過程を指導してきました。サッカーの話ではありませんが、チーム作りの観点で参考になる部分は多いはず。
 
そのエピソードを詳しく伺ってみましょう。
 
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■指導者は命令をする人ではなく、サポートをする人

早稲田大学アーチェリー部は、全日本選手権準優勝、世界選手権出場などの華々しい実績を持つアーチェリー界の名門ですが、守屋さんがコーチ就任を要請された2004年頃は、部員が20名程度まで激減しており、かつての名門の姿は見る影もなかったそうです。
 
守屋さん「就任のきっかけはアーチェリー部のOB会で、“部が大変なことになっている。コーチをやってくれないか”と頼まれたことでした。実際に私が練習を見に行くと、選手があいさつをしない、遅刻しても平然としている、練習を休むなど、組織として成り立っていない状況でした。部員が少ないのでリーダーシップを取れる人材もおらず、マネージメント力も年々低下。厳しいことを言って部を辞められると困るため、上級生は下級生を叱ることもせず、仲良しクラブ化していました」
 
守屋さん「これはまずいと、最初は私がいろいろ注意をしました。だけどそれを言っても、学生たちは何も変えないし、その場限りの“ハイハイ”で終わってしまう。そんな状況が3年くらい続きました」
 
アーチェリー部の転機となったのは、守屋さんがコーチングやコミュニケーションの手法に変化を加えたことでした。
 
守屋さん「2008年頃からは私もコーチングを習い、自分のコミュニケーションスタイルを変えました。私は“やれ”と命令する人ではなく、選手たちのサポートをするという立場を明確にしました。何かをしなさいではなく、なぜそう思ったの? 他に良い方法はある? それをやるとどうなる?と、全部を質問に変えて選手自身に考えさせるようにしました。
守屋さん「もちろん組織なので基本動作を徹底させなければいけません。あいさつをするとか、遅刻をしないとか、それができないと社会に出てから困るということで、徹底的にやらせました。せっかくの大学生活なのにダラダラしたクラブで4年間過ごしていいのかな?とか、ウチと慶應大学を比べてどう思う?(慶應はきちんとしていて良いと思う)じゃあウチはどうしたいの? そんな話をずっと繰り返していました」
 
あえて守屋さんが命令をせず、選手に問いかけながら考えさせるようにコーチングのやり方を変えると、選手たちの態度、姿勢にも変化が現れるようになりました。
 
守屋さん「だんだん学生のほうからも相談に来るようにもなり、それに対して私も質問して、考えさせることを繰り返していました。そして徐々に部員も増えて、組織がまともになり、リーダーシップを取れる人材も出てきました。自分たちの現状に対する課題を出して、考えて、もっと良くしようという動きが発生し、自律的な良いサイクルが回り始めました」
 
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■選手が間違いを犯したとき、指導者はどう関わるか?

チームの質が変わっていく早稲田大学アーチェリー部は、選手たち自身が自発的に動き、リーダーシップを取る人材も現れるようになりました。このようにしてチームが自律型組織に変化すると、難しいのは彼らが間違いを犯したときの指導者としての関わり方です。
 
守屋さん「2010年に主将の選出についてクーデターが起きました。リーグ戦が終わると主将の代が変わり、新しい主将を総会で承認するのですが、暫定的に主将としてやっていたA君に対し、総会の直前に同期のB君とC君が“お前なんかに主将はさせない”と伝えたのです。その理由は“下級生たちが部の運営について文句を言っている”ということでした」
 
守屋さん「A君は部を変えようと思って厳しくしていました。練習量を増やしたり、規律をちゃんとしようと。しかし、それをあまり良いと思っていないB君とC君が結託し、A君にも問題点はいくつかあったんですけど、それを理由に主将の座から引きずりおろそうとしたのです。突然の宣告を受けてショックを受けたA君は総会には出席せず、B君が主将としてそのまま承認されてしまいました」
 
本来ならば、これは自律型の組織が自分たちで決めたこと。その決定は尊重すべきなのですが、しかし、部の規律正しい運営を考えると、A君が主将を務めたほうが良いのも事実。また、あまりに乱暴な決め方でもあります。そこで守屋さんは、選手たちに再考を迫りました。
 
守屋さん「みんなおかしいと思わない? 昨日まで主将だった人がこの場にもいなくて、いきなり出て来た人を吟味もせずに承認してしまって。それでいいの?」
 
そこから再び総会を設定し直し、話し合いをたくさん行わせた後、A君が主将になることに決まりました。組織のマネジメントに長けたA君は、練習の中でグループごとの目標を設定して振り返りながら実践することをルール化したり、何か失敗があったときに対応策を話し合うなど、リーダーシップを発揮してチームをシステム化していきました。
 
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■中立的に第三者の視点で関わる

守屋さん「総会のとき、クーデターに関して何が起こったのかを学生たちに整理させる必要がありました。指導者としてはA君が主将を務めて欲しいという意図はあったのですが、ただし、私がどちらかに寄ってしまうのは良くない。いかに中立的に第三者の視点で関わることができるか。たとえば、“A君が良くないことをしたとみんなが言っている”と伝えられたとき、それはそれとして聞きながらも、それはいつのこと? 何人の学生がそう言ってたの? と事実を確認していくと、“みんなが言っている”というような話が、実は誰も言っていなかったり、すごく昔にあった間違いを掘り出したような話だったりします。人間は自分にとって都合の良いように情報を操作するので、そういう事実を客観的に切り分けました」
 
守屋さん「あとは、“本当はどうしたいの?”という問いかけも大切ですね。本当はどういうチームにしたいのか、どういう関わり方をしたいのか。それに対して今の状況は本当に良いと思っているのかを聞いて行く。仮にクーデターでひっくり返った体制になったとして、その状況で下級生に対して自分たちが目指していることができると思う?といった具合です」
 
指導者としての希望はありながらも、あくまで決めるのは選手が主体。守屋さんはその中に巻き込まれないように、あくまで中立的に選手たちの話を整理しようと務めました。
 
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■問題を他人の責任ではなく、自分の責任に置き換えさせる

守屋さん「話し合いをしていると、必ず“誰々が悪い”、“あの人のせい”という話になります。そこから固有名詞を除いていくのが大切ですね。誰か1人のせいではなく、チームとしての問題、チームとしての行為だったと客観的な表現に変えていきます。人間はどうしても犯人探しをしたくなりますが、犯人にされた人は必死で抵抗したり、反論しようとするだけで、何も状況は変わりません。さらに犯人扱いをしている側も、問題を他人の責任としてとらえているので、自分の問題として考える当事者意識を欠いてしまいます」
 
質の低い組織ほど、このような犯人探しに終始してしまい、課題の解決にエネルギーが向かなくなる傾向があります。これではチームのパフォーマンスは上がりません。
 
守屋さん「文句も不満も失敗も、チームの中から出てきた声を一度受け止めることが大切です。それもそうだよね、それも含めて全部、今の私たちの姿だよねと認めるところからスタートするのです。やる気のない人がいて困っている、何とかしてほしい、だけどそういう人が出てくるのも、今の自分たちのチームの現実だよねと認める。そのうえで、“じゃあどうしたい?”と問いかけるのです」
 
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■反対意見を言えない環境がいちばんまずい

このような問題が表れると、一般的な指導者は、それは良いことなのか、ダメなことなのかと、評価を下しがちになります。
 
守屋さん「指導者が上から目線で問題をつぶすと、対処療法的にやることになるので、偶然それが解決するかもしれませんが、それによって新たな問題を引き起こすことも多々あります。人間には感情があるので、納得しないままに問題をクローズされるとストレスを抱えてしまいます」
 
守屋さん「何を言っても大丈夫という安全な場を作らなければいけません。どんな意見でも、チームの声を出してもらってありがとうと、受け取るのです。反対意見を持っていても、言えない環境というのがチームとしていちばんまずいので、思い込みや遠慮を取り除くのがすごく大切です。反対意見を言う子を守ってあげつつ、声を出してもらう。そのとき、その意見の内容の是非について話すと議論になってしまうので、“それを聞いてどう思ったか?”というふうに気持ちや雰囲気を聞いて、あえて白黒を付けずに声を受け止めることが必要だと思います」
 
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■選手が自然とやりたいと思うチーム作りを行う

みんなが楽しみ、やる気を出して取り組めるチーム環境を何年もかけて作り出す。ある程度チームの形ができれば、上級生が下級生をリードしながら自然と部の運営が成されていきますが、最初は特に大変です。たくさんのコミュニケーションを取りながら、徐々に目指すチームの方向性を共有してもらわなければいけません。
 
このようなチーム作りは、高校の部活のように先生がいて、決められたとおりに練習する組織とは全く違うものです。結果として強くなったとしても、人によってはイヤイヤやらされていたり、面白くなかったり、その競技に燃え尽きてしまうことも多くあります。
 
守屋さん「そういうやり方もあるとは思いますけど、私は学生自身が自然とやりたいと思うようにチーム作りに手をつけています。今のアーチェリー部はかなり成熟した状態になってきました。試合に出られない選手がサポートする姿勢を見せ、自分たちの試合としてみんなが戦い、みんなが本当に悔しがっています。あいつが出られて俺がなんで?というような不満は出てこない。あいつが出るなら俺はサポートをがんばるよと、自然とそうなっています。このようなチームを経験し、大学を卒業した選手たちが、どのような社会人になるのかも楽しみです」
 
 
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守屋麻樹//
もりや・まき
早稲田大学政治経済学部政治学科卒。ローレルゲート株式会社の代表取締役として法人向け人材育成コンサルティングを手掛けるとともに、研修講師、セミナー講師、大学講師、プロコーチとして活動中。プライベートでは、2004年より早稲田大学アーチェリー部ヘッドコーチ、2010年より監督を務める。「若者を元気にすること」と「スポーツを通じて日本の社会をもっと活気あるものにすること」を自分が与えられた使命と考え活動している。
プロフェッショナルコーチ 守屋麻樹のブログ
 

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取材・文/清水英斗 写真/サカイク編集部(チビリンピック2012より)

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