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テクニック

香川真司の"速さ"を生み出す3つのエンジン

2014年6月10日

キーワード:コントロールトラップ

4年前の南アフリカワールドカップでは23人のメンバー選考に漏れてしまい、練習のサポートメンバーの一人として日本代表を支えた香川真司選手。その後、ドルトムント、マンチェスター・ユナイテッドといった欧州のビッグクラブで活躍を果たし、今回のブラジルワールドカップでは、ザックジャパンのエースとして試合に臨みます。
 
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(文/清水英斗 写真/松岡健三郎)
 
香川選手のプレーは、どんなところが上手いと思いますか?
 
この質問は100人に聞くと、100通りの答えが返ってくるのかもしれません。香川選手はプレーの幅が広い選手。ドリブル、パス、トラップ、状況判断、ポジショニングなど、さまざまな要素を備えているので、どれか一つに絞るのも難しいところです。
 
では、選手同士ではどのように見えているのでしょうか? 今回は香川選手とプレースタイルが似ていると言われる清武弘嗣選手に聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。
 
「ファーストトラップの置きどころ、相手に簡単に体を寄せられないところ、トップスピードの中でも普通通りにボールを扱えるところ。そういうのはすごく上手いなと思います」
 
清武選手が挙げてくれた3点について、より掘り下げていきましょう。
 

■3発を一発に短縮するファーストタッチの妙

まずは「ファーストトラップの置きどころ」。
 
攻撃的MFの香川選手は、ボールを受ける状況判断に優れています。相手ディフェンスの間にスペースを見つけると、そこに味方がパスを出せるタイミングでサッと顔を出し、縦パスを受け取ります。
 
このとき、当然ながら相手のボランチやDFは鋭く寄せて来るでしょう。そのプレスを怖がって前を向くことができなければ、バックパスか、良くて横パスを選ぶしか手段がありません。それでは攻撃にならないので、いかに縦パスを受けながら前を向き、チャンスにつなげていくのか。
 
香川選手はボールを出す味方に対して半身になり、相手ディフェンダーへの視野を確保しています。そしてスペースがあると判断したら、ファーストタッチで前を向くのですが、このときの特徴的な動きは、回転ターンです。
 
軽くひざを曲げて、がに股のような姿勢になり、縦パスを包み込むようにインサイドで止めながら、そのままクルッと回転し、香川選手は“一発で”前を向きます。ところが、それがあまり上手くない選手の場合、ボールを前に置いて、それから体を回転させて、“二発で”前を向くか、あるいはもっと下手な選手の場合、ボールをそのまま足元に止めて、もう一度ボールを前に出して、それから体も回転するといった具合に“三発かけて”前を向かなければいけません。
 
当然、“一発で”止めながら回転するほうが、プレースピードは上がります。“三発で”前を向く選手の場合、3~4メートルまで寄せられていたら、もうターンして前を向くことが不可能になるかもしれませんが、“一発で”向ける香川選手なら、1~2メートルの間合いでもクルッと前を向きながらトラップし、素早くボールを動かすことができるでしょう。
 
ザックジャパンと対戦したチームは、しばしば「日本はスピードが速い」と褒めることがあります。しかし、陸上競技で求められるような単純な速さで言えば、世界レベルと比べて本当に速いと言えるのは長友佑都選手くらいです。香川選手も遅いわけではありませんが、足の速さそのものは平凡です。しかし、“三発で”ターンするような選手よりも、素早く、スムーズに次のプレーに移ることができるため、香川選手はプレースピードが速く、チームのテンポやリズムが上がっていくのです。
 

■逆足ボールコントロールの幅の広さ

次は香川選手の、「相手に簡単に体を寄せられないところ」を掘り下げましょう。
 
香川選手も清武選手も、体格が小柄なので、大きな選手にドーンと当たられてしまうと、ボールを失いやすくなります。そこで大切になるのは、相手に体を寄せさせないテクニック。
 
ここではアジリティー(敏捷性)がキーワードになります。直線の速さそのものは平凡な香川選手ですが、細かく前後左右、斜めなどにステップを踏む動きは、ワールドクラスの素早さを誇ります。この能力を生かし、ドーンと相手に当たられる寸前のところで、いつもボールと一緒にスルッと抜け出しています。
 
特に目を見張るのは、切り返しの角度の深さと、軸のコントロール。
 
たとえば右アウトサイドでボールを切り返そうとするとき、普通は右斜め前へボールを動かすような形になりますが、香川選手の場合はもっと深く、右の真横か、あるいは右斜め後ろぐらいにまで、深い角度をつけて切り返すことができます。
 
小さな選手がドリブルから切り返す場合、大きな選手の長い足がボールに引っかかりやすくなるため、このような深い切り返しを使いこなすと、よりスルッと脱出してプレスを回避しやすくなります。 
 
また、香川選手は基本的に、ドリブルは利き足である右足で行いますが、たとえば相手に追い詰められた場面では、あえて相手から遠い左足にボールを置いてプレスを回避することもできます。普通、左足でキックをすることくらいは、ある程度はできる選手もいますが、しかし、左足にボールを置いて逆足のみでのドリブルまで、スムーズにできる選手はそれほど多くはありません。
 
大きな選手は確かに足が長いのですが、左右両足を自由に使いこなしてボールキープできれば、そこで1メートルの幅を獲得したことになります。さすがに香川選手より1メートルも足が長い選手というのは考えづらいので、これで充分なアドバンテージを獲得していることになります。このような両足コントロールは、清武選手にも見られる技術です。
 
 

■トップスピードでの繊細なコントロールは重心移動がカギ

最後は「トップスピードの中でも普段通りにボールを扱えるところ」。
 
もちろんボールタッチそのものの上手さもありますが、もう一つ、香川選手で注目したいのは、軸のコントロールによる緩急のつけ方です。
 
たとえばみなさんはスピードを上げようとするとき、地面を蹴って走り出していませんか? また、ブレーキをかけるとき、足の裏と地面の摩擦で、一生懸命にキキキキィッと止まろうとしていませんか? このような体の使い方は、足だけでなく上半身にも余計な力が入ってしまい、予備動作にも時間がかかります。その結果、ドリブルのフォームも崩れやすくなり、ボールタッチにも乱れが起きやすくなります。
 
一方、香川選手は、イニエスタ選手などもそうですが、脱力してリラックスしたドリブルの姿勢を常に作っているため、ボールタッチが乱れにくいという特徴があります。そのポイントとなるのが軸のコントロールです。
 
スピードを上げるときは、体を進みたい方向へ斜めに倒して、重心を前へ移動させることで走り出します。スキーのスラロームでは、進みたい方向へ体を倒しますが、それと同じ原理です。一方、ブレーキをかけるときは、体を反対側へ倒し、重心の移動による反力をブレーキに使います。
 
このようなシンプルな方法で緩急をつけているため、余計な力を入れる必要がなく、リラックスした姿勢で、スピードの変化に対してバランスが崩れないのです。
 
清武選手が挙げた3つの要素は、香川選手のプレーのすごさを見事に表現しています。現代サッカーにおけるスピードとは、単なる足の速さではありません。判断の速さ、プレーをつなぐ速さ、方向を変える速さ、ブレーキをかける速さ…。そのさまざまな“速さ”を兼ね備えているのが、香川選手の最もすごいところと言えるでしょう。
 
 

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文/清水英斗 写真/松岡健三郎

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