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スポーツの現場における体罰や暴力にどう取り組むかを考える

公開:2013年9月20日 更新:2013年11月26日

キーワード:フェアプレー指導者

「サムライブルーを代表して対戦相手そして審判をリスペクトし、ルールを守り公平にプレーします!」
 
 先日行われたキリンチャレンジカップで、日本代表の長谷部誠キャプテン(ニュルンベルク)が試合前にこう宣言したのを覚えている人もいるでしょう。
 
 グアテマラ戦が行われた9月6日からガーナ戦が行われた10日まではちょうど国際サッカー連盟(※以下FIFA)が定めたフェアプレーデイズ。サッカーのピッチにおいては、本来は毎日がフェアプレーデイズなのですが、世界的に特に強く「フェアプレー」を呼びかける期間がこの日だったわけです。
 
 暴力や体罰が社会問題化する日本のスポーツ界ですが“紳士のスポーツ“、サッカーでも当事者意識を持った取り組みが期待されています。
 
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 9月7日に日本サッカーミュージアムで「リスペクトF.C. JAPANシンポジウム ~暴力根絶に向けて~ 」が開催されました。日本のサッカーはスポーツの現場における暴力にどう取り組むのか、サッカーが誇る“フェアプレー”をどう深めていけるのか、会場の様子を交えながら、この問題について考えてみましょう。
 
 

■「しない、させない、許さない」

 シンポジウムは眞藤邦彦日本サッカー協会(※以下JFA)指導者養成ダイレクターの基調講演からスタートしました。大阪、桜宮高校で起きた体罰による自殺という衝撃的な事件を受け、これまで取り組んできた体罰によらない指導アプローチをさらに深めようという取り組みを「しない、させない、許さない」という3つのセクションに分けて現状の報告がなされました。
 
「しない」は、主に指導者が主体的に暴力によらない指導を徹底すること。これは、言葉の暴力を含めて、今後さらなる啓蒙が必要になってきますが、だいぶ世の中にも浸透してきているのではないでしょうか。難しいのは「させない、許さない」の部分です。眞藤ダイレクターも「暴力も含めどのような行為が指導者としてふさわしくないのかを明示的に規定するという議論もあったが、かえって解釈の限定や拡大につながってしまうおそれがあるため見送った経緯がある」と、“どこまでが暴力か?”という現場が直面する問題の難しさを強調していました。 個別の問題に対しては、JFAで対応窓口を設置、これまでに32件の問い合わせがあったといいます。
 
「暴力根絶」はこれからも日本サッカー界を挙げてのテーマになっていきます。眞藤ダイレクターは「スポーツの価値や社会的役割を高めるために、サッカーに関わるすべての人が取り組むべき問題」と、講演を締めくくりました。
 
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■暴力根絶に向けて

続いて行われたパネルディスカッションでは2度のW杯で主審を務め、現在、JFAリスペクト・フェアプレー委員会の委員長である上川徹さんを司会に、眞藤ダイレクター、サッカー元日本代表の森島寛晃さん、“清水三羽烏”を率いて全日本少年サッカー大会の初代優勝監督になった綾部美知枝さん、そしてゲストに柔道界からソウル五輪銅メダリスト、山口香さんを迎えてスポーツの暴力根絶について討議が行われました。
 
 スポーツ界に根深く残る暴力の問題。暴力からの脱却を図っている真っ最中の柔道界のトップでやってこられた山口さんによると「JOC(日本オリンピック協会)がジュニア年代までにアンケートを採ったところ、10%強が被暴力を経験している」といいます。
 
「この問題は指導者の側に依然として“厳しくされた”経験=成功体験という図式が残っているからなのです。この暴力の連鎖は断ち切らなければいけません」
 
 山口さんは続けます。
 
「殴ってそのとき良くなると言うことはあるかもしれません。でもその子の一生を指導者が背負えるわけではない。その子が将来困ったときに、どこにいても駆けつけて殴るんですか?そうじゃないでしょう?暴力は解決にはなりませんよね」
 
 日本代表として活躍した森島寛晃さんも「現役時代、日本代表の選手たちは負けず嫌いばかりでした。『なにくそ』という気持ちがなければあそこまでは行けなかったと思います。でも、代表になるくらいの選手たちはチームメイトを尊重する気持ち、指導者を敬う気持ちがなかったらいいプレーができません」と、感情的な言動や暴力で何かが解決することはないと言い切ります。
 
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■伝わらないのは大人のせい

リスペクト・フェアプレー委員を務める綾部さんは、子どもたちを指導した経験をもとに「大人と子どもの言葉の齟齬」について言及します。
 
「大人の言葉って、子どもたちにとっては難しいこともあるんですよね。でも、子どもたちは優しいから『ハイ』ってわかった振りをしてくれる。それで試合になると、指導者は『わかってるのか!』と声を荒げるんです」
 
 これは言葉も含んだ暴力が起きる、指導者側の大きな問題。
 
「伝えられていないのに怒るのは違いますよね。子どもたちに対しては常にこちらが目線を合わせてあげる。話す前に本音を聞く努力をすることです」
 
 綾部さんの言葉は「暴力」とまでは行かなくても、ついつい声を出してしまう指導者には耳が痛い言葉なのではないでしょうか。
 
スポーツに関わる全ての人が考えるべき暴力根絶について。次回はさらに議論が深まるシンポジウムの内容から「リスペクトの精神」について考えます。
 
 
リスペクトの精神をサッカーから浸透させて、暴力根絶をめざそう>>
 
 
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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取材・文/大塚一樹 写真/サカイク編集部

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