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「口出し」と「過保護」はイコールではない! 村松尚登さん&小澤一郎さんに聞く『バルサ超え』の方法

公開:2013年6月28日 更新:2020年3月24日

キーワード:スペイン指導者育成親子

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 2013年6月24日、『日本はバルサを超えられるか』という書籍の出版記念イベントが行われました。著者は、FCバルセロナスクール本校コーチ、FCバルセロナスクール福岡校コーチなどを経て現在は水戸ホーリーホック・ジュニアユースでコーチを務める村松尚登さん、そして育成年代取材のスペシャリストであるサッカージャーナリスト・小澤一郎さんの両名です。
 
 書籍のオビに「真のサッカー大国に向けて『育成』が果たすべき役割とは」と書かれているとおり、本書がフォーカスを当てているのはA代表ではなく育成年代について。『育成環境』『指導者』『保護者』『Jリーグ』『メディア』の5テーマについて、村松さん・小澤さんが交互に意見を述べながらバランスよく記述されている良書です。
 
 出版された6月中旬は、ワールドカップアジア最終予選で日本の予選通過が決まり、コンフェデレーションズカップに備える時期。A代表に注目が集まる頃に、あえて育成にフォーカスを当てた書籍を出版したのはなぜでしょう? 本イベント前に、著者である村松さんと小澤さんにインタビューを行なわせていただきました。
 

■日本サッカー界というピラミッドの底辺である「育成環境」の整備が必要

小澤さんは、このタイミングでの出版について「A代表の選手で育成機関を通っていない選手はいない」からであると説明しています。
 
小澤「A代表に注目が集まるタイミングですが、私も村松さんもA代表ありきではなく『育成ありき』の立場です。A代表の選手で育成機関を通っていない選手はいません。スペインで、かつての英雄であるフェルナンド・モリエンテス氏(現レアル・マドリー フベニールB監督)にインタビューした際にも、同じ事を聞きました。
 
 A代表は日本サッカー界というピラミッドの頂点であり、そこに注目が集まることは重要です。ワールドカップで好成績を目指すことも重要です。しかし世界を勝ち取るため、そして本書のテーマである『バルサ超え』を果たすためには、ピラミッドの底辺である育成環境の整備が必要です。サッカーを実際にプレーしている選手が大人になり、家族を持ち、ファンとしてヨーロッパや南米にあるようなサッカー文化を作ることが目標達成への近道だと考えます」
 
 結果的にA代表に注目が集まるタイミングでの出版であったとはいえ、あくまで主眼は育成でありサッカー文化の醸成であることを強調しています。本書で繰り返し述べられているのは、指導者と保護者の重要性。村松さんは、保護者の役割について次のようにコメントしています。
 
村松「私はスペインおよび日本において指導者として保護者の方々と接し、その経験を踏まえて本書を執筆しました。日本文化の中で、保護者は子どもにどうアプローチするのがベターなのか、保護者は指導者とどういう距離感を保てばいいのか、本書がそういったことを考えるきっかけになればと思います。
 
 何もかもを指導者にお任せ、というのは違うと思います。かといって、いわゆる『ヘリコプター・ペアレント※』になるのも問題でしょう。過保護・過干渉になるのではない、ほどよいバランスというものを模索する必要があると思います」
 
 この点については村松さん、小澤さんとも異口同音に「口を出すことと過保護はイコールではない」と強調しています。
 
小澤「日本では、保護者の方はクラブや協会側から『なるべく口を出さないように』と言われ、それに従っている方が多いと思います。一方、スペインでは保護者がおとなしいのかというと全く逆で、日本ではあり得ないほど過干渉です(笑)。親が監督のように指示を出し、選手が混乱するケースもあります。シーズンが始まる前、監督は『絶対に保護者からのコーチングを聞くな』とクギを刺すほどです。
 
 大事なことは、選手自身が身の回りの情報を収集し、自分自身で決断し、責任を自分で負うことです。それは、サッカーというスポーツの特質にも通じます。私のパートでは『選手に判断材料を提供できていますか?』という問題提起をしました。保護者が子どもに選択肢を多く持たせることと、口出しをしないこととは矛盾しません。というより、口を出さないためにも、子どもに選択肢を多く与えることが重要なのです」
 
村松「要は、過保護・過干渉の『過』を取ればいいのです。保護はきちんとしなければいけないし、コントロールすべきところは主導権を取るべきでしょう。過保護か放任かでは真逆にぶれすぎであり、そこのバランスを取ることが重要なのです」
 
※ヘリコプター・ペアレント
常に子供の周囲にいる親のこと。例えば就職活動の面接に一緒に来たり、オフィスに仕事の様子を見に来るといったような親。子供の周囲に常におり、ヘリコプターの様に頭上を旋回し続けているといった意味でヘリコプター・ペアレントと呼ばれている。
 
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■親子で一緒に楽しみながら、子どものモチベーションアップを図る

 過保護にならず放任にもならないためには、子どもの自主性を引き出すのが大事です。その点について、村松さんは映像をうまく使うことでモチベーションアップを促しているようです。
 
村松「バッテリー内臓型のプロジェクターを三脚につけて白い壁に投影し、大音響のスピーカーを使って練習前に見せたりします。映像の内容は練習テーマに沿ったものから名プレー集、さらに同年代の子どもたちのスーパープレー集であったり様々です。映像で見せれば自分たちの何が足りないのか、ガミガミ言うよりはるかに伝わります。また、多くの映像が脳に蓄積されていくと、言葉で受け取った情報を子どもたちが脳内で映像に変換できるようになっていきます」
 
小澤「映像を見る絶対量は、スペインやヨーロッパの先進国と比べると(日本の子どもたちは)違うのかなと思っています。日本はどうしても言葉の指導、言語技術などから入ろうとしますが、親と子どもが一緒に楽しんでサッカーを見ることだけでも良いでしょう。いろんなサッカーのシーンを共有し、ボンヤリとシャワーのようにプレーを見続けることでイメージやクリエイティビティは育っていくと思います」
 
 もっとも、映像を見ることを強いるようになっては意味がありません。村松さんは、以下のように提言しています。
 
村松「習い事のように『映像を見るべき』になったら本末転倒です。見ていてサッカーをしたくなる、心を揺さぶられるのが本筋だと思います。見たくなるように仕向ける工夫が必要でしょう。スペインの子どもたちは、遊びの延長線上で映像を見ています。ネイマールのドリブルを見れば、誰もが『オオ!』となりますよね? 子どもたちのハートに火が点けば、サッカーをしたくなるはずなんです。
 
 親御さんも楽しんで試合を見て、なんだったら『もう遅い時間だから寝なさい、これ以上見ちゃダメだよ』とか言ってもいい(笑)。地上波テレビでの映像は少ないですが、スマートフォンが普及したことで画面が小さいながらも映像を見られる敷居そのものはグンと下がっていると思います。うまく工夫して、子どものモチベーションアップに使うと良いと思います」
 
 情報をうまく与え、選択肢を多く持たせることで選手の自立性を育んでいく。そのためには、保護者がいかに「一緒に楽しめるか」も大きな要素と言えるのではないでしょうか。
 
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写真右:小澤一郎//
(おざわ・いちろう)
1977年生。京都市出身。早稲田大学卒業後、スポーツ系専門学校職員を経て渡西。2005年よりスペインにてサッカージャーナリストとしての活動を開始し、2010年3月に帰国。5年の滞在経験を活かし、バレンシアCFの日本語HPやコーディネーション業務もこなす。日本とスペインの両国で育成年代の指導経験があり、指導者的観点からの執筆も得意とする。サッカー関連の媒体に執筆する傍ら、講演会、ラジオ、テレビ番組への出演もこなす。新刊に『サッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『日本はバルサを超えられるか』(河出書房新社)。
 
写真左:村松尚登//
(むらまつ・なおと)
1973年生。千葉県立八千代高校卒。筑波大学体育専門学群卒。指導者の勉強のため1996年にバルセロナに渡る。2004年にスペインサッカー協会の上級コーチングライセンス(NIVEL 3)を取得。2005-06シーズンにはスペインサッカー協会主催の「テクニカルディレクター養成コース」を受講。この12年の間にバルセロナ近郊の8クラブで指導に携わり、2006-07シーズンよりFCバルセロナのスクールにて12歳以下の子供達の指導に従事。2009年9月から2013年2月までFCバルセロナのスクール福岡校(※正式名称はFCBEscola Fukuoka)の指導に従事。2013年3月、水戸ホーリーホックの下部組織のコーチに就任。著書に『スペイン代表「美しく勝つ」サッカーのすべて』(河出書房新社)、『スペイン人はなぜ小さいのにサッカーが強いのか』(ソフトバンク新書)など。
 

 

<<目次>>
ANGLE1 日本の育成環境の「現在地」を検証する
ANGLE2 育成年代の指導者が目指すべき方向性を探る
ANGLE3 保護者に求められる意識と関わり方を再考する
ANGLE4 Jリーグの果たすべき役割を考察する
ANGLE5 育成効率化のためのメディア活用法を提案する
【スペシャル対談】日本サッカーの未来への提言
 
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取材・文・写真/澤山大輔

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